SKETCH BOOK



「大丈夫か?」


「う、うん……」


返事をして顔を上げると、
松田くんが駆け寄ってきた。


さっきまでの怖い顔はもうなくて、
代わりに苦笑いをした松田くんの顔がそこにあった。


「百瀬、もう大丈夫だからな」


「うん……あの、ありがとう……」


「にしてもこんな夜遅くに
 一人で出歩くのはよくないな。
 百瀬も女の子なんだから
 それを自覚しないと。危なかったな」


「そうだぞ。もっとしっかりしろよな」


橙輝がきゅっと抱き寄せた手に力がこもる。


その瞬間、きゅうっ、と胸が苦しくなる。


ぱっと目を逸らして再び地面を見つめた。


すると、松田くんの声が聞こえてきた。



「あー。やっぱ俺、ダメだわ」


何?

何がダメなの?


ちょっと気になるような言葉を落とした松田くんだけれど、
顔は上げられない。


そのまま次の言葉を待っていると、
橙輝があたしから離れた。



その途端、急に心が落ち着く。


橙輝に触れられていないっていうだけで、
体温が元に戻る感じ。


落ち着いて呼吸が出来ると思ったのも束の間、
ぐいっと肩を掴まれた。


誰に?



……松田くんに。



「ま、つだくん……?」












「俺さ、お前のこと、好きだわ」











「えっ?」






「入学式の時からずっと好きでした。
 良かったら俺と……付き合ってください」






< 90 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop