海風
言い伝え
水乃の母が水乃の部屋からリビングに戻るとソファに座っていた水乃の父が心配した様な表情で聞く。
『母さん、水乃は?』
『駄目だったわ
まだ立ち直れていないみたい……』
『……そうか』
『こういうのって時間がかかるのよねぇ……』
『まったく……
水乃を任せられるのは凪君ぐらいだと思ってたんだが……』
『あら、随分前にあの子達が夜遅くに帰って来た時には激怒していたと思ったんだけど……』
『あ、あの時は……だな
水乃は一応大事な一人娘だからな
あの年齢で襲われたり、間違いがあったらと思ったら……』
『ふふ、あの子の素直じゃない所は貴方譲りね』
『う、うるさい!』
二人の仲の良さはまるで水乃と凪を見ている様な気分にさせられるのはきっと気のせいじゃないだろう。
しばらく沈黙して水乃の母はソファに座り、悩ましげに呟く。
『……でも、どうしたものかしら
こういうのは大抵時間しか解決してくれないのよね……』
『…………そういえば昔、俺がまだ子どもの頃に婆ちゃんから聞いた言い伝えみたいな物があるんだが……』
『え?』
『現世に未練を残した幽霊は約30日間の間だけ留まって未練を解消する事が出来る……と』
『あら、奇跡みたいな言い伝えね
でも、迷信なんでしょ?』
『さて、本当かもしれないし生きてる人間の望みかもしれない
だが、実際婆さんが死に別れた爺さんと会ったみたいでな……』
『えっ……』
『まぁ、婆ちゃんが少しボケ始めた頃に聞いた話だからな
妄言って言われると否定しにくいけどな……』
『でも、その言い伝えが本当なら……
凪君に会いに来てほしいわね
水乃に……』
『あぁ……』