あなたの命、課金しますか?


たとえばカフェで。


「木苺のパンケーキなります」


「ありがとう」


私はちゃんとお礼を言った。男性の店員さんに。


それが常識だからだ。店員に横柄な態度を取るほうが、間違っている。向かいの席に座る交際相手への印象を良くしようと、笑顔を盛るくらいでもいい。


「今、あいつを見てたな?」


押し殺した声が聞こえてくる。


口に入れた生クリームが、途端に苦く感じられた。


「そんなことない。だって私は裕也のことが__」


「いや、色目を使ってた」


その目に、炎が激(たぎ)っていた。怒りの炎が。


無言でお店を出ると、怒りに任せて歩いていく裕也を必死で追いかける。


もちろん、謝りながら。


謝りながら、私がどれだけ裕也のことが好きで、どれほど裕也を愛しているか訴えることも忘れない。


ようやく裕也が立ち止まり、振り返った。


拳だ。


平手ではなく、拳で殴られた。


少しでも裕也以外の男性を見ると罵声を浴びせられ、そして少しでも反抗すると、暴力が飛んでくる。


どうすれば殴られないか?


どうすれば裕也の機嫌を損ねないか?


私はそればっかり考えていた。


どうすれば裕也を怒らせないかで、いつしか私の頭は占められていたんだ__。








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