あなたの命、課金しますか?
【S】
部活の掲示板、その隅っこに小さく記されている文字があった。
誰にも注目されないSという英字は、私だけにあてられたメッセージ。
トイレにいく途中で発見すると、胸がじんわり温かくなる。
Sは方角でいうところの【南】。
南くんから私宛てへの、秘密のメッセージなんだ。
それが書かれてある日は、放課後に理科室で待っていると。
携帯は逐一、裕也のチェックが入る。すでに男の名前で登録されている番号は、一件残らず削除された。
だからこうやって、バレないようにやり取りするしかないのだが、私には常に裕也が付きっ切りだ。
私たちにだけ分かる暗号を見つけても、放課後に行けないことのほうが多かった。
かといって、それを知らせる術はない。
南くんとはクラスが違うし、同じクラスだとしても裕也の目が光っているから、どちらにせよ難しい。
それでも掲示板を通るたびに、その小さな【S】の字を見つけると、心が踊った。
ずっと閉じ込められていた薄暗い洞窟に、一筋の光が差したように__。
「ごめんね、なかなか来れなくて」
裕也の目をかい潜って理科室に行けたとしても、ものの1分で出ることになる。
それでも南くんは笑顔で迎えてくれて。
「渚の顔が見れただけでいいよ」
笑顔で送り出してくれる。