あなたの命、課金しますか?
「おはよう、渚」
教室に入ると、待ち構えていたように声が掛かる。
裕也と付き合い始めてから、私に挨拶する女子は居ない。
朋美や優衣らは距離を置くようになったし、私が綺麗になったことで、井沢さん柴田さんグループとも関わりがなくなった。
それはそれで寂しいと感じないこともなかったが、当時は裕也一途。
今もその形は変わりがないのだが__私は挨拶を返した。
「桃子、おはよう」
少し照れ臭い気もする。
けれど、まじまじと桃子の顔を見ていた。
私も、ここまで落ちてきたんだ。ひどい言い方だとは思うが、たとえ数日間でも雲の上で過ごした高揚感は忘れられないものがある。
「なに?なんかついてる?」
「ううん、懐かしいと思って」
「懐かしい?変なの」
桃子が笑った。
決して綺麗じゃないけど、心から安心できる笑顔だ。
私は戻ってきた。
元いた場所に。
でも、元どおりではない。
「おはよう、桃子、渚」
「おはよう、京子」
私は京子こと、井沢京子に挨拶をした。
すぐに私たちグループは膨れ上がる。
桃子と2人きりのはずだった関係性が、違っていたんだ。
それは桃子自身が外見を変えることなく掴んだ位置。そのおこぼれを貰ったわけで、賑やかなスクールライフだった。
そして、変わっていないこともある。
変わるはずなのに、変わっていないことが。