あなたの命、課金しますか?


本気だ。


冗談めかして言っているが、目が笑っていない。


南くんの指を1本ずつ切り落とした男。桃子を消してしまうなんて、わけ無いだろう。


決して逆らっちゃいけない。


決して怒らせちゃいけない。


決して嫌がっちゃいけない。


この3カ条を胸に刻み、私は裕也との交際を続けていたのだが__。


「渚、愛してる」


「__私も」


裕也の家のベッドで、私たちは抱き合っていた。


何もなければ、裕也はとても優しい。イケメンだし、全女子の憧れとこうして付き合っていることは、私の価値まで引き上げられているような気になる。


あくまで【何もなければ】の話。


「渚」


私の毛先、手の甲、くびれた腰、それらが私であることを、柔らかく撫でて確認する。


円を描きながら頬に触れ、その唇が近づいてくる。


私は目を閉じた。


唇に、裕也の息遣いを感じる。


もう触れる。


唇と唇が、触れ合う至福の時。


本来ならば胸を突き上げるような幸福が訪れるはずなのに、私の胸にこみ上げてきたのは__吐き気だった。


「うっっ‼︎」


呻いた私は、裕也の胸を突き飛ばして部屋を出る。


トイレに飛び込み、吐いた。


吐けるものがなにもなくなるまで、吐いた。



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