あなたの命、課金しますか?


頬に触れる。


涙の跡が濡れていた。


そのことも分からないくらいの、息ができない恐怖。


「そうか、渚もそんなに悲しいのか?」


そうかそうかと、訳知り顔で頷きながら裕也が私の頭を撫でる。


毛に触れられるだけで、怖くて恐ろしくて止まらない涙を、赤ちゃんを喪った悲しみだと履き違えているんだ。


じゃなかったら今頃、叩きのめされているだろう。


「渚も喜んでたもんな。やっぱり悲しいよな?」


「__うん」


頷いておく。


それで誤魔化せるなら、何度でも頷いてやる。


それで裕也を、怒らせないで済むのなら__。


「俺も悲しいよ。俺と渚の、愛の証だったからさ」


「__ごめん」


「馬鹿だな。渚が謝ることじゃないだろ?」


「うん、でも」


少し申し訳ない気が、しないでもない。


はなっからウソなんだから。


妊娠など、していないのだから。


「なにも気にすることないって。今は体を休めることを1番に考えな」


「ありがとう」


私は微笑んだ。


ようやく、微笑むことができた。


「ありがとう、裕也」と、もう一度お礼を言った。


「気にするなって」


裕也も笑顔で返してくれる。


そして微笑んだまま、私に言った。





< 221 / 279 >

この作品をシェア

pagetop