あなたの命、課金しますか?


ぼんやりする日々が過ぎていく。


自分が自分だとも自覚できない、ただの寝たきり。


それでもよく、取材がやってきた。


【長寿】という言葉をよく耳にする。


目が覚めるのは、ご飯の時くらいだ。


それも自分で食べることもできず、なにか柔らかいものが喉を通り、お腹に入るという感覚だけ。


「お母さん、お兄ちゃんが死んだよ」


誰かが耳元で泣いている。


娘だったろうか?


親より先に死ぬなんて、なんて親不孝だろうか?


悲しみが過(よぎ)ったのも、ほんの一瞬。


誰か枕元で泣くたび、切なさが襲う。


切なさ__で、合っているのか分からないが。


「ばあちゃん、もう142歳って世界記録だぜ?」


「私たちのほうが先に死んだりしてね?」


「笑えないぞ、それ」


誰かと誰かが喋っている。


孫のような気もするが、分からない。


私が今、142歳だというのは分かった。


142歳?


「なんか、気味悪くない?150歳だよ?」


「孫も全員死んでんのに、まだ生きてるなんてな」


また誰かが喋っている。


どうでもいいが、次の瞬間、私の頭が覚醒した。


「寿命、どんなけあるんだよ?」


【寿命】という言葉が、どうしても聞き流せない。


過去が、津波のように襲ってくる。




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