野獣に恋するヘタレちゃん






「ねっきーお疲れ。ヨダレ垂れてる。」
「へっ?!あ…えへへ。お疲れさまです、渋谷さん。」
「なんとかしろ、そのニヤケ顔。」


ふに~っと片頬を摘まれても、緩んだ顔は元に戻らない。


「気持ち悪いわ、いい加減。」


何とでも言ってくださいよ、渋谷さん。

あれから、鎌田さんの過保護ぶりはランクアップして「お前、ほんと危なっかしいから、俺の家に住め」って…。

私は逆らえず、鎌田さんのお家にお世話になっております。


「鎌田さん毎日甘えるんですよね…『膝枕』とかって言って!」
「うるさい、ねっきー。」


渋谷さんに反対の頬も掴まれても、ほらね?幸せ過ぎて痛く…なくない!痛い!


「ひはひっ!ひはひ~!」

楽しそうに笑う渋谷さんの後ろに出来た人影。


「おい、何してんだ」
「あ、樹だ!」


ヤベって顔して…渋谷さん、逃げた!
酷い!私だけを残して…


「美希…」
「は、はい!」


耳に鎌田さんの唇が触れた。


「今夜空けとけ。」


今夜?

今日…入ってたかな?クライアントやお得意様との会食。

首を傾げたら、ニヤリと笑う鎌田さん。


「恭介に触れられたんだぜ。ただで済むと思うなよ。」


…ああ、心拍数が上がる。



「あ~あ…今日も野獣のエジキだねえ。」
「し、渋谷さん!いつの間に戻って…。」
「ま、末永くお幸せにね。」


私に可愛い笑顔を向けると、自分の荷物を段ボールに詰める渋谷さん。


「渋谷さん…そう言えば三課に異動でしたね。」
「そっ。お世話になりました。」


何だか、寂しいな…渋谷さんには沢山助けて頂いていたのに。

書類を取って帰って来た鎌田さんの掌が頭に乗っかった。


「まあ、さ。寂しいのはわかるけど。あいつの事、応援してやろうぜ。」


鎌田さんの横顔は、渋谷さんにいつになく優しい眼差しを送っていた。


“応援”と“眼差し”の理由があの木元さんにあると言う事を知るのは…もう少し先のお話で。


「とにかく、お前は今晩な。」
「は、はい…。」


私は今日も、鎌田さんにどうしようもなく恋をしています。




ー野獣に恋するヘタレちゃん、fin.ー
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