嘘でも君の『好き』が聞きたい。
story.1



突然の言葉に、耳を疑う。



今、彼女は、



私の目の前にいる彼女は、なんと言ったか。



「えっと、ごめん。もう1回言って?」



彼女はニコッと笑う。



「もう。ちゃんと聞いててよね。もういっかいしか言わないからね?」



「うん。」



「私、拡樹が好き。」



やはり、自分の聞き間違いなどではなかった。



彼女の発した言葉は、まるで金槌で頭を殴られたかのような衝撃を与える。



「そ、そうなんだ…」



困惑した頭は、彼女に素っ気ない態度をとってしまう。



「それで、今度告白しようと思ってるんだけど…。」



彼女は1度言葉を区切って、顔を少ししたに傾け、上目遣いをする。



その頬は薄桃に色づいている。



「協力してほしいなあって…思って、るんだけど……。」



小さな手を絡めて胸の前へ持っていく姿は、単純にただただ可愛い。



こんな子に告白されれば、彼は、



拡樹は、断らないわけがない。



だから。



だからこそ。



絶対に協力なんてしたくない。



私も。



私だって、拡樹を……



突然黙りこくった私を心配したのか、彼女は私の顔をのぞき込む。



「どうしたの?」



彼女の顔を見つめる。



大きなくりりとした瞳。



小さな鼻。



小さくピンク色の唇。



ふんわりとした茶色の髪の毛。



生まれてからずっといっしょで、何度も見てきた顔だけれど、それでも見飽きないほど可愛い。



私も、こんな顔に生まれてきてれば、自信が持てたのに。



彼女、末原日和は、私の幼馴染、家は多少離れているが、幼稚園からずっと一緒の親友だ。



可愛い。



小さい。



おまけに性格もいい。



好きにならない男子なんていないと思う。



「もしかして、伊代も、拡樹のこと、好きなの?」



ボーッとしている私に問いかけるその言葉にハッとする。



「そんなわけないじゃん!応援する!いや、協力するよ!告白に!」



大きな声でまくし立て、両腕で拳を作り、胸の前でぐっとする。



ねっ、と顔を傾けると、日和は嬉しそうに笑った。



「良かったぁ。黙っちゃうから、不安だったよぅ。」



心底安堵したようにほっと胸をなでおろす仕草を見ると、キリキリと心が痛む。



ごめん。



ごめんね。



ホントは、私も拡樹の事好きなんだ。



嘘ついて、



ごめん。



心から応援できなくて、ごめん。



「それでね?今度、3人で水族館に行かない?もし行けたら、その時に、ちょっとだけ、二人きりにしてほしいなって、思ってるの。」



「そ、そっか。ロマンチックでいいじゃん!」



「だよね!それに、あそこの水族館、告白が絶対叶うって有名な場所なんだ!だから、選んだの。」



「へー、そうなんだ?知らなかった。」



「そうだと思った!だって、伊代、全然そういうの興味ないもんね。」



日和は一旦喋るのをやめ、ジュースに口をつける。



そしてまた喋る。



「いっつもこういう話しようとすると、はぐらかすか逃げるかするんだもん!もしかして、好きな人でもいるのかなって、思ってたんだけど。どう?」



慌てて手をブンブン降る。



「いないよいない!そんなのいない!興味ないもん!」



大きな声を出してしまい、喉が少し痛くなったから、私もジュースを1口飲む。



「もうひとつお願いがあるんだけど、いい?」



「ん。言ってみ。」



「水族館に誘うの、伊代がやってくれない?お願い!緊張しちゃって、誘えなくて……」



「全然いいよ。私が言っとくね。」



「ありがとー!」



そう言って日和はジュースを飲み干し、立ち上がる。



「じゃあ、そろそろ帰るね。」



「うん。また明日。」



日和を家の外まで送り出し、また部屋に戻る。



閉めた戸を背にもたれかかり、そのまま座り込む。



もしかしたら、あのふたりが付き合うことになるかもしれない。



そうなったら、どうなるだろう?



2人が仲良くして、私だけ蚊帳の外?



日和が嫉妬するから、俺とは話さないでって、拡樹に言われるかも?



色んな感情が入り交じった複雑な気持ちを抱えながら、ふと、窓の外に目をやる。



窓の外に見える窓にはカーテンがしてあり、中の様子は伺いしれない。



「弘樹、今、何してんのかな…」



ポツリと声が漏れ出ていた。



拡樹の家は私の家の隣。



私の家なんかより、何倍も大きな彼は、父親が会社を持つ御曹司。



まるで住む世界が違う人。



そんな彼と仲良くなったのは、母親同士が高校の時の友達で、よく遊びに行ったり来たりしていたから。



高校までは学校も違ったけど、彼とも幼なじみとして仲良くしてきた。



そんなうちに、彼の無邪気な部分も。



寂しがり屋なところも、



何もかも、全部に引かれてて



気づけば好きになっていた。



でも告白はしない。



今の関係を壊したくないから。



そんな程度のことで壊れてしまうような関係だって、ちゃんと分かってるから。



だから仕方ないんだ。



諦めるしかない。



そうやって自分の心に言い聞かせる。



気づけば、1粒の雫が瞳から流れ落ちていた。


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