異邦人
「ねぇ、今日は内藤さんいないの?」
「へっ?」
不意に声をかけられてその方を見上げると俺のすぐそばに橋本が立っていた。
「あー外出中だよ。びっくりしたなー」
電話を終えてすぐ声をかけられたので何事かと思った。そんな俺に構うものかと橋本は要件を言い始めた。「ねぇ、内藤さんから問い合わせがあってその返事をしたいんだけど」
「帰って来てからすれば良いじゃん」俺は彼女の方に体を向けることなく書類作成に取り掛かった。
「急ぎだから待ってられない。増田くんが対応してよ!」
「はぁ!?」
「これ、彼に言われて客から写真取り寄せたの。これを税関に見せてすぐ(輸出)許可にして!」
「んな、無茶苦茶な・・・」
「急いでるのよ!早くね」
「分かったよ」と渋々了解して受話器を取った。俺は視線を感じて後ろを振り向くと「そこにいられると落ち着かないんだけど」と橋本に言った。けど彼女は「気になるから」と言ってその場から離れようとしなかった。
「税関に説明しておくから。自分の仕事に戻りなよ」と言うと彼女は渋々納得したのか踵を返した。しかし、すぐ戻ってくると「ねぇ、今週の土曜日空いてる?」と聞いてきた。
「はっ!?今度は何!?」仕事とは関係のない質問に戸惑っていると「あ、あの藤井くんとかがさーまた集まろうって話してて。この前は席が悪くてみんなとあまり騒げなかったから今度は一室貸し切るってことになったのよ」と先程の勢いとは違いなぜかしどろもどろになりながら橋本は説明し始めた。「あぁ、そうなんだ」と俺は彼女の話を理解すると「悪いけど今週の土曜日は先約があるんだ」と言って謝った。
一瞬寂しそうな顔をしたかと思ったら急に「あ、そうなんだ。じゃ、仕方ないね」とガラッと態度を変え「じゃ、藤井君とかにもそう言っておくね」と言って去って行った。
俺は、彼女の後ろ姿を見送ると一旦受話器を置き、再度税関に電話をしようと思い受話器を持ち上げると突然隣の内田君の内線が鳴り響いた。一旦自分の受話器を置き、内田君の席の方に体を起こして見ると内線の相手先が木原さんと表示されているのを見た。
 
え!?木原さん?と思った俺はすぐさま内田君の席の受話器を取ろうとしたけどその前に電話が切れた。また、掛かってこないかと数分待ってみたが何も反応がなかったので俺から電話をかけようと思い受話器を持ち上げたら、後ろから声を掛かけられたので俺は驚いて思わず変な声を上げた。
振り返ると案の定木原さんが立っていた。
 「どうしたの?変な声出して・・・」
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