異邦人
「え?休日っすか?大学の友達とスポーツバーに行ったり、同期と飲んだりしたり。そんなとこっすかね?」と言うと「それって楽しい?」って真面目な顔して聞いてきたので「楽しいですよ」と応えると「そうなんだ。良かったね」と言ってきた。
俺は彼女の反応を不審に感じながらも「木原さんはどうなんですか?」と聞いてみた。
「私は・・・友達とお洒落ランチしたり、美術館行ったり、クラシックバレエ観に行ったりとか」
「お洒落っすね!」
「まぁ、お洒落なことが好きだし。たまにはこうやって男性とお洒落ディナーも良いかもね」と俺の目を捕らえて言うと人を試すような不敵な笑みを浮かべた。
俺は彼女の視線に耐え兼ねて一瞬目を泳がせるとワイングラスに視線を置き「充実した休日が過ごせて良いですね!まさにリア充じゃないですか」と言うと彼女の返答は意外なものだった。
「本当にそう思ってる?」
俺は顔を上げ「思ってますよ!」と彼女に向かって言うと彼女は口角を上げ笑うと「本当にそう思っているならただの大馬鹿野郎だね」と言ってきた。

突然の彼女の一言に思わず噴いたがすぐさま「なんですか、大馬鹿野郎って・・・」と聞き返すと「何も分かってない」と彼女は応えた。
「お洒落なことなんて金があれば出来ることなの。そんな薄っぺらい楽しみなんか本当の意味で充実してるだなんて言えない。本当の喜びはこんな浅いものじゃなくて心の奥底から湧き上がってくるものなの。努力をして一生懸命頑張って達成して得られるものなの。こんなの全然違う」
そう言うと彼女はワインを一口飲みおもむろに「ねぇ、本当の喜びって何か知ってる?」と聞いてきた。俺は、さぁと応えると彼女は「自分の才能が認められることよ」と言った。
「これほどの喜びなんてない」
そう言うと彼女は「そろそろ出ましょう。その前に私トイレ行ってくるから」と言って席を立った。俺はしばらく彼女のいない空いた席をぼんやり眺めていたがふと我に返ると彼女が戻ってくる前に会計を済ませた。
< 20 / 48 >

この作品をシェア

pagetop