異邦人

木原さんと二人っきりで食事をして以来、別段変わったことは起きなかった。職場で会っても挨拶を交わす程度で二人で会話をするということもなかった。お互い仕事が忙しいため立ち話する時間もないと言えばそれまでだが、俺としてはほんの少しの時間でも仲良く話がしたいし、木原さんの声が聞きたいし、木原さんの笑顔が見たいとか思っていた。
そんな数日経ったあくる日、税関から戻ってくるとオフィスビルの一階にあるコンビニから出てくる木原さんと鉢合わせになった。
同時にお互い気づいたのだが、彼女は笑顔になると彼女から先に俺の方に駆け寄って話をかけてきた。
「どうしたの?ここで会うなんて珍しいね。どっか行ってたの?」
「税関の帰りです」
「あぁ、そうなんだね!お疲れ様!」
「お疲れ様です。木原さんはなんでコンビニに?」
「小腹がすいたからお菓子を買いに」と言って袋からうまい棒を取り出した。
「そんなの食べたら太りますよ~」と軽口を言ったが多少太った木原さんも可愛いかもなと俺は思った。
「なに~。大丈夫だよ、ピラティス・ヨガやってるし」と笑いながらお菓子を食べてもなんともなさそうな軽快さで応えた。
「偉いっすね~。俺なんて全然運動できてないから腹が出てきちゃって・・・」とお腹を撫でる仕草をすると「運動しなよ」と間髪入れずに言われてしまった。

「ところでさー前に聞くの忘れてたんだけど増田くんの趣味って何?」突然話題が変わり真剣な表情で聞いてくるので俺は一瞬切り替えに戸惑ったのと、なんでそんなことを聞いてくるのだろうと思った。でも、それを聞いたところで俺と仲良くなりたいからと言うだろうし、突然の彼女の質問には慣れてきたので俺は「趣味ですか?」と言って頭の中で考えると「特にないですね」と応えた。
「ふーん、そうなんだぁ」と彼女は興味なさそうに応えた。「木原さんは趣味なんですか?」と聞くと「え?私?私は、読書かな」と応えた。
「え!?読書するんですか?意外」と言うと彼女は「え?そう?」と俺の反応に対してクールに躱した。
「え?読書って何読むんですか?」
「色々だよ。特に古典文学が好きかな。夏目漱石とか・・・」
「え!?夏目漱石とか読むんですか?」
「うん。彼の書いた『こころ』と『坊ちゃん』が好きだね」
「へぇ、なんか知的ですね」と言うと「どこがやねん」と彼女は笑いながらツッコミを入れた。彼女が本を読んでいることに驚いたけれど余韻のないまままた彼女が別の話題に変えてきたので俺はまた置いてきぼりにされた思考を切り替えた。
「ねね、来月の社員旅行だけど増田くんは参加する?」
「はぁ、まぁ。一応参加しますけど木原さんは?」
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