異邦人

社員旅行がいよいよ来週と迫った頃、俺は久々に大学時代の友人と集まり新宿の居酒屋で飲んでいた。すると思い出したように佐々木が聞いてきた。
「そういや、マッスー年上の会社の先輩とのサシ飲みはどうだったんだよ」
周りのみんなも前の会話を思い出したようで「そうだよ、マッスー！気になってたんだぜ？どうだったんだよ」と雅人も目を輝かせながら聞いてきた。
「どうって・・・。普通にフレンチ食べて職場の人の話したりしたくらいかな」と俺があの時のことを思い出すようにして応えると
「おおー」と少し下品混じりの男の歓声が上がった。
　「で、その先は？」と高橋が聞いてきた。
「え!?先って？」
「食事が終わった後だよ」
「特に何も。そのままお互い家に帰ったよ」と言うと「えー！それだけかよ」と雅人が大げさに嘆き始めた。「やっぱりな」と長谷裕二が言うので俺が「やっぱり？」と聞き返すと「お持ち帰り出来なかったんだな」と言われた。
「何言ってるんだよ!?そんなのする訳ないだろ！」と俺が驚いて反論すると「いやいや、マッスーそれくらいしないと男がすたるって」と人差し指を立てて振り子のように揺らす仕草をしながら雅人が応えた。
「そうゆう問題じゃないだろ！一応会社の先輩なんだから・・・」と言うと健吾も「まぁ、それもそうだよな」と同調してくれた。だけど他の３人は納得がいかないようだった。
「だって好きなんだろ？」佐々木にそう言われ俺はハッとした。「何を言ってるんだよ。ただの会社の先輩だって」そう応えるも俺の心臓は早鐘のようにドクドクと急速に鼓動を早め、体温が一気に上昇した。「俺だったら好きじゃでもなくても抱くけどな。良い女なら」と自慢げに長谷裕二が言うと「お前はとんだ貴公子だよ」と高橋が笑いながらツッコミを入れた。「うぶなんでちゅよねー、マッスーは」と人を馬鹿にするような言い方で言う雅人に向かって俺は「そんなんじゃないよ！職場の関係を壊したくないだけだよ！」とムキになって応えた。「それに来週、社員旅行があるし」とぼそっとつぶやくと周りが一斉におおおーと歓喜の声を上げた。「え？じゃぁ、その時に抱くのか？」とニヤニヤしながら高橋が言ってきた。「そんなんじゃ・・・」と否定するも「チャンスだな」と長谷裕二に言われた。「次の報告も楽しみにしてるよ」と気持ち悪い顔で雅人に言われてこの話は収まったけど俺の鼓動はまだ早鐘を打っていた。