異邦人
「それにしても、女がいるだけでも良いなぁ~!俺も女とちちくりあいてぇ!」と雅人が憂えた。「別にちちくりあってる訳じゃ・・・」と俺が言うと「俺も他の女とたまにはしたいな」と高橋が自分の彼女の存在を忘れたように悪びれもなく言った。すると名案を思いついたのかパッと明るい表情になると「じゃぁ、ナンパしね?」と雅人が言ってきた。「マジかよ」と健吾が言うと「おぉ、いいね!」と佐々木が乗ってきた。「でも、見渡す限りあんま良い女いねーよな」と長谷裕二が言うと「いや、さっきあっちに座って女子会やってる中にいたんだよ、可愛い子が!」といつの間にチェックしたのか雅人が万全の準備を整えたような自信あり気な顔つきで言ってきた。「じゃぁ、ナンパしてくるからよ!長谷も来い!」と言ってこの中で唯一のイケメンを引っ連れて雅人は遠慮することなく女性陣の中に入っていってしまった。

「あいつすげーな」感心とも呆れとも取れるような声で高橋が言うと「でも、楽しみだな」と佐々木が言った。俺があまり乗り気でないように見えたのか佐々木が慰めるように「まぁ、たまには違う女とも関わっとくのも損じゃないって」と言った。この時の俺は正直、女子が加わることに嫌悪も楽しみも感じていなかった。しかし、居心地の悪さを感じるようになったのはそれだけ俺が木原さんの影響を受けていたからなんだろうなと思った。

「はーい、連れてきましたよー!お待ちどうさん」と本当に雅人が女の子を連れて戻って来たので驚いた。恐らく大半の女子が長谷裕二目当てで付いて来たんだろうと解釈した。みんな都内に勤めてるOLで、雅人が言っていた際立って可愛い女性が俺の前に座った。前田さんという女性だった。俺は思わず彼女をまじまじと見た。確かに可愛いなと思った。「さぁさ、乾杯しましょー!」

乾杯が一段落着きそれぞれ自己紹介が始まると雅人が場を盛り上げるため俺は空気を読んで犠牲となった。
「マッスーがこの中で一番普通だから!」
雅人の一言でみんなが一斉に笑いだした。俺も紹介を受け「一番普通でーす」と更に場を盛り上げた。馬鹿馬鹿しいとは思いつつも反論する気はなかった。ただ、男だけでいるときはみんな良い奴なのに、女子が絡むとお互いが戦友と化し優位になろうと見えない火花を上げ始めるのでそれが残念に思えてならなかった。
みんな可愛い前田さんの前で格好付けたいだけだった。しかし、そんな俺も愚か者を演じるという皮肉な自己犠牲のお陰で前田さんの可愛い笑顔を見ることが出来たから良かったと思った。
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