異邦人
しかし、一瞬喜んだのも束の間、散々俺をコケにして場を盛り上げたと思ったら今度は雅人が注目を独り占めするようになり、みんなの視線が俺から離れるかたちとなって目の前にいる前田さんも俺を見ようとしなくなった。
次第に俺は焦りとつまらなさを感じ始めるようになった。前田さんに声をかけ話を盛り上げようとしても彼女にはその気がないらしく常によそよそしさを感じた。彼女の愛想笑いを見て切なくも感じたがどうすることも出来なかった。俺が悪いのか彼女が悪いのか。大して木原さんよりも可愛くないくせに木原さんよりも会話力が乏しくて、俺は次第に苛立ちを感じるようになった。
周りは大いに盛り上がっていた。みんなが雅人の方を見て、みんなが笑った、俺も笑いに参加した。けれど無理に周りに溶け込むこもうとしてる俺は、心の中で疎外感を感じていた。こんなに楽しく盛り上がっているのにみんなと一緒にいることがこんなに苦痛だと思わなかった。くだらないと、つまらないと今まで思ったことがなかったのに。俺はただ周りを見て笑いながら木原さんのことを思い出していた。

居酒屋を出るとこの後どうしようかという話が出た。俺は正直帰りたくなったが言えそうになかった。
「カラオケ行こうぜー!」
そう雅人が言うと女子たちもまんざらでもないのか雅人の提案に同意していた。
居酒屋の前で固まって騒いでいるといきなり透き通った聞き慣れた声が俺の耳に入ってきた。
「あれ?もしかして増田くん?」
その方を振り返ると予想だにしてなかった展開が待っていた。
「え?木原さん・・・?」
一瞬で場が静まり返った。みんなが一斉に木原さんに注目した。
「あ、やっぱりそうだー。何してるの?ここで」
「あ、大学時代の友人と飲んでまして・・・。木原さんはどうしたんですか?」
「私はこの辺の近くで女子会してたの」と言って彼女は俺の後ろにいる男女の集団に目をやった。だけどすぐに視線を俺に戻すと「じゃぁ、悪いかなぁ」と言って少し困った顔をした。
「え!?なんですか?」
「あ、いや私今から帰るんだけど、方向一緒だから増田くんも一緒に帰らないかなぁと思って。でも、なんかお取り込み中みたいだし」
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