異邦人

俺たちの歓迎会のはずなのに話題はいつの間にか説教話に変わっていた。黒髪短髪で、黒縁メガネをかけた見るからに知的な３５歳の係長、黒川さんは「最近の若い子はたるんでる！」と言い、「俺らの頃はしょっちゅう上司に怒られたし、色々やらされたもんだ」と語りだした。「最近の若い子は根性がないよなー、ですよねー？」と急に表情を変え、媚を売るような笑顔で黒川係長はマネージャーに同意を求めると「うむ、そうだな」とマネージャーも相槌を打った。そして、「まぁ、若い世代の子達も色々あって大変だと思うが、これも試練だと思って頑張ってくれたまえ」とマネージャーは優しく橋本に向かって言った。

どうやら、接待ゴルフに参加したくないと橋本が言ったことに黒川係長は腹を立てたらしい。すると、「まぁまぁまぁ」とこの場をなだめるような声がして、俺はその方に目を向けると木原さんが「若いうちはなんでも許されるから大丈夫！」と橋本に向かって明るい口調で言った。そして続けざまに「だから、私はいつまでも許されるために若作りを頑張っているのよ★」と満面の笑みで言うと「お前は、成長しろ！」と黒川係長からの鋭いツッコミが入って、みんなが一斉に笑い出した。すると興奮した木原さんは「と、いうか、いつの間にか全員私のこと見てない？みんな私のこと好きなの？」と言い出して更に笑いを誘った。確かに、一瞬にして場を盛り上げ、みんなの注目の的となった木原さんだったが「お前が面白いこと言うからみんなが見るんだろ」と黒川係長から鋭いツッコミを受けると更に場がヒートアップして店内全体に響き渡る程の大笑いを巻き起こした。

一体感となった場の空気は一旦落ち着きを取り戻し、いつの間にかまた個々で会話をするようになった。内田君と仕事の話をしていると急に「そういや木原は男性社員の中で誰が一番タイプなんだ？」とマネージャーの愉快な声が俺の耳に入ってきた。俺だけじゃなく内田君も佐藤くんもその場にいる男性社員が一斉に木原さんの方を向いた。彼女は、照れながら周りを見渡すと「えーみんなですかね？」と笑顔で応えた。それに対してマネージャーが一人に絞れと催促すると彼女は「でも、みんな素敵だしー・・・」と言うと俺の方を見て急に黙った。

そして、俺と目が合うと木原さんは俺を見つめた。一瞬、ドクンと鼓動が波打った。脈が上がり全身の血液がドクドクと凄まじい速さで駆け巡るような錯覚に陥った。え？俺？と、そう思った矢先、彼女はふっと優しく微笑むと顔を背け、「やっぱマネージャーが一番ですよ！」と応えた。