異邦人
現地に到着すると旅館までどのように移動するかという話になった。俺たちの泊まる旅館は山の上にあるため女性陣が登るのは心臓破りだという結論になり、女性陣がタクシーを使い俺たちは歩いて行くことになった。
「うっしゃーいっちょ体力作りだ!」と佐藤くんが言ったので最初はだるいと思っていた男性陣も佐藤くんに感化されてやる気が漲ったように思えた。俺は嬉しそうにタクシーから手を降る木原さんを見て少し切なく感じた。しかし、俺もタクシーに乗りたいとは言えないし、男としてのプライドもあったため気合を入れて山を登り始めた。

しばらく歩いていると隣にいる佐藤くんが俺にだけ聞こえるように言ってきた。
「俺、旅行中に木原さんに告るわ」
「え!?」俺は驚いて思わず声を上げた。
「増田くん見てたらなんか焦りを感じてさ」冗談交じりに笑って言う彼を見ながら「焦りって?」と俺が聞き返すと「いや、木原さんと仲良さそうだったし、増田くんも木原さんのことが好きなら負けてられねーなと思って」と言われた。
「いや、別に好きとかじゃないっすよ。ただの会社の先輩です」
「そうか」
俺はそう言って誤魔化し、佐藤くんがそう言って納得すると「じゃぁ、遠慮なく」と真剣な顔で佐藤くんが言ってきたので俺はなぜかズキッと心が傷んだ。
「はい、どうぞ遠慮なく」とは言ってはみたものの俺の息が多少上がってきてるように思えた。山登りがきついせいか、そう考えた。

旅館に着くと既に涼んでいる黒川係長に「遅い。早く荷物を部屋に置いて来い」と言われ俺らは急いで荷物を置き、集合をした。
広間に行くと「お疲れ~」と笑顔で木原さんが俺に言ってきた。「その表情ムカつきます」と言うと彼女は楽しそうに笑った。俺も笑うとその光景を見ていた佐藤くんと目が合い気まずい思いをした。
別に俺は木原さんをただの先輩としか思ってないし、木原さんと佐藤くんが付き合おうと俺には関係ないと思っているのに、なぜこんなにも気が重いのか自分でも分からなかった。

「じゃぁ、この後は自由時間だから温泉入るなり、観光するなり好きにしろー!ただ、旅館から出るときは一人行動を避けるように」と黒川係長がみんなの前で言った。
橋本は仲の良い女性社員と固まって観光をするようだった。俺も佐藤くん達と一緒に観光するんだろうなと思っていた。木原さんはどうするのだろうと思ったら彼女は歯向かうように黒川係長に向かって「えー!私、一人で観光したいんですけど!」と言った。
「だから、一人はダメだって!」
「大丈夫ですよ!子供じゃないんですから」
「そういう問題じゃねー!観光するんだったら誰かと一緒に行け」と黒川係長に言われると木原さんは諦めたのか俺に近づき「じゃぁ、増田くんと行動します」と言ってきた。
「は!?」俺は驚いて声を上げた。だけど、木原さんは俺の動揺には気にも留めず妥当なことを言ってるかのように「それで良いんでしょ?」とツンと顎を上げて黒川係長に言うと「あぁ、まぁそれならいいけど」と彼を納得させた。
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