異邦人
「えー何を言ってるんすか!俺が嫌っすよ」とあからさまにみんなの前で否定すると「我慢しなさい」と木原さんが言ってきた。「我慢しなさいって・・・」俺が苦笑いで応えると「いいから、来てよ」と言って彼女は俺の腕を掴むと外に連れ出した。どう見ても俺が無理やり彼女に連れられたのだとみんなは思っただろう。人影のない場所まで連れてくると彼女は俺の腕を離し、腕時計を見て「15時にここで集合ね」と言ってきた。
「は?」
「だから、15時にここに集合してどこに行ったとかつじつまを合わせるのよ。それまでは自由に遊んできていいから」
「ちょっと待ってくださいよ。さっきから何を言ってるんですか!?」
「何って。私、一人で行動したいのよ。さっきは黒川さんを納得させるためにああ言ったけど本当はこうするためにしたの」
「えー!」俺は彼女の作戦に驚いていると「じゃ、また15時にここで」と言って彼女が立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!一人行動ダメだって黒川係長に言われてるじゃないですか」
「それがなによ。バレなきゃいいでしょ」
 「ダメです!バレます、ってか俺がバラします!」
「は?なに言ってるの、あなた」
「いいから、一緒に行動しましょうよ」
「なに言ってるのよ。それに増田くん私と行動するの嫌なんでしょ?」
「いや、仕方ないっすから付き合いますよ」
 「余計なお世話」
そう冷たく言い放つと木原さんはスタスタと歩き始めた。俺は彼女に追いつくと「待ってくださいよ」と言って彼女の腕を掴んだ。彼女は俺の手を振り払うと「やめてよ!私、本当に一人がいいのよ!ほっといて!」と言い放ち、俺はその言葉に内心傷ついてそれ以上彼女を引き止めることができなくなった。
 それでも、俺は木原さんを一人で行動させたくなかったから、自分でも怪しいとは思ったが物陰から彼女の姿を伺い、彼女を尾行しながらの観光を行った。
もっとも観光してる気分では全くなかったが、俺は彼女が確認できる位置で彼女を見守れるならそれでいいやと思った。
木原さんは一人でも本当に楽しそうに見えた。お土産屋売り場で可愛いキーホルダーを見つけるとそれを拾い上げ「可愛い・・・」と思わず呟いていた。他にも店のおばちゃんに声をかけられ楽しく会話をしていた。俺は一体こんなとこで何してんだろうと思った。
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