異邦人
「木原さん、俺・・・・木原さんのことが好きです」そう言うと彼女は驚いて俺を見た。そして一瞬目を逸らすとすぐに俺を見て「聞かなかったことにするわ」と言った。
「木原さん！」
「聞かなかったことにするからそこどいて」
俺はそう言われて彼女の顔に唇を近づけた。
「やめて・・・」
彼女は腕で俺を防御しようとするが俺が彼女の両手首を片手で抑えたため彼女は身動きが取れなくなった。
「木原さん・・・」俺は余った左手で彼女の頬に触れた。その瞬間、彼女がこわばったようにビクッと震えた。俺は躊躇することなく彼女をこちらに向かせると俺は自分の顔を近づけた。「やめて・・・・」彼女の切ない声が俺を痺れさせた。目をつむり必死に抵抗する彼女を見下ろしながらゆっくり彼女の唇に触れようとした。その瞬間、思いがけない光景が目に入った。
木原さんの閉じた瞳から一筋の涙が頬を伝って流れ落ちた。
俺は驚いてそのまま身動きが取れなくなった。掠れるような声で「お願いだから」と懇願して木原さんは涙を流し続けた。俺はぐっと堪えると諦めたように彼女から離れた。その時、忘れてかけていた動悸や呼吸が戻ってきたかのように自分が激しい衝動に駆られていたのを悟った。俺は、涙を流す彼女を見ながら「こんなの、木原さんらしくないです」と言った。すると彼女は俺を非難するような軽蔑するような目で見ると「私らしいって何よ」と言ってきた。俺はそれ以上どうしていいか分からず黙って彼女が泣き止むのをひたすら待ち続けた。

　　　　　　　　
あれ以来、木原さんと言葉を交わすことは無かった。
喫煙所に入るとタバコに火を点けて吸い始めた。携帯のバイブが震えたのを感じて画面を見てみると木原さんからのメッセージが届いているのに気づいた。「今週の土曜日空いてる？」久々の彼女からの誘いだった。
喫煙所を出ると待ち伏せしていたのか、たまたまそこにいたのか分からなかったが橋本と通路で会った。
「あ、増田くん。今週の土曜日って空いてる？」
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