異邦人
「え?今週の土曜?」
 「うん、その日二人っきりで会いたいんだけど・・・」
「あ、ごめん。その日は用事が・・・」
「夜遅くても良いの!会えない?」
橋本にしては必死だなと思ったが気にすることなく「夜遅くても良いなら・・・」と応えた。すると彼女は喜んで「ありがとう!じゃ、また土曜日に!」と言うと慌ただしく去ってしまった。俺は携帯を取り出すと木原さんに返事を送った。


木原さんとあんなことがあってからも内心彼女のことは気になっていた。急に泣かれてそれ以上はどうしようも出来ずにいたが彼女からまた前みたいに誘ってきてくれた。
木原さんのことが良く分からなかった。何を考えてるのか俺のことどう思っているのか全く分からなかった。だから、俺はこの日に決着を付けようと思った。
だけど臆病で卑怯者の俺は、あの後愚かな道を歩んでしまうことになろうとは、この時全く想像もしていなかった。

二回目に彼女に誘われた場所は地下にある落ち着いたbarだった。店内にはjazzが流れ、スーツをビシッと着こなしたバーテンダーが恭しく俺たちをカウンターへと案内した。
木原さんに灰皿を渡されたが俺はそれを端に置いた。彼女が禁煙者だと知ったからには彼女の目の前では吸いたくなかった。
席に着くと彼女はマティーニを頼んだ。俺はシャンパンを頼むと程なくして乾杯した。
「もう、誘われないかと思いましたよ」
「そうね、本当はもう誘わないようにしようかと思った」そう言って彼女はマティーニを一口飲んだ。
「じゃぁ、なんで誘ったんですか?」
「ちょっと・・・色々話したいことがあって・・・」
「え、なんですか?」
「それより最近どうよ、仕事は?」そう言うと彼女はマティーニをぐびっと飲んだ。
「どうって。まぁ、普通ですよ。いつもと変わらないです」
「そっか」
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