異邦人
「そっか」彼女は差し出されたアレキサンダーをぐびっと飲んだ。
「子供は欲しいわけ?」
「まぁ、そうですね。欲しいっす」
「そっか」
「木原さんは?子供欲しいですか?」
「欲しくない」
少し酔ってきたのか彼女は色っぽいため息を漏らすと、トロンとした色っぽい目で伏し目がちに俺を見てきた。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?」
彼女の妖艶さにドギマギしながらも彼女のいつもと違う様子に俺は少し心配になった。
「大丈夫だから。ねぇ、なんで子供なんて欲しがるの?生まれてきても子供が不幸になるだけだよ」
「木原さん?」
「子供はね、成長するといつしか親の無能さを知り軽蔑する。学校の先生は社会性を強要するだけで個性のことは考えない身勝手な大人であって、周りの子たちは同調性を好んで段々と愚かになっていく。そんな中で真に人生を楽しめる子なんて果たしているのかな?」
「・・・・・」
「いつしか、親や環境を憎む時が来る。自分なんて生まれて来なきゃ良かったって思う時がくる」
彼女はひと呼吸置くとアレキサンダーを一口飲み遠くを見つめた。俺は初めて彼女の闇を見た気がした。重苦しい見えない黒い壁がこれ以上彼女に近づけさせないようにと俺の前に立ちはだかってるようだった。
「俺は・・・それでも木原さんが生まれてきて良かったと思ってます」
彼女は俺の方を向くと「それはあなたが私のことを何も知らないからよ」と言った。
「知りたいです」
「言いたくない」
「それでも好きな人のこと、知りたいです!」と言うと彼女は深い溜息をつき「私は増田くんのこと好きじゃない」と言った。
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