異邦人
え?と俺がマネージャーの方を振り向くと「あれを見てみろ。職場でも一番おとなしい人に声をかけて話している。あいつは誰とでも仲良く出来るからすごいよなぁ」と言って片手に持ったジョッキを傾けビールをぐびっと飲んだ。「あぁ、そうですね」と応えると俺はもう一度木原さんの方を見た。楽しそうに会話する彼女の姿が見えた。

宴もたけなわとなり、最後に俺と橋本が新入社員としての抱負を述べると最後にマネージャーがみんなに喝を入れ、一本締めで会はお開きになった。この後、二次会の話が出て俺と橋本と通関部門の男性陣は参加することとなった。もちろん、木原さんも来るかと思ったら彼女は高藤さんと一緒に帰ろうとしていた。
「ごめんなさい、今日は失礼いたします!」
「何言ってんだよー!木原も来いよ!」と黒川係長が言った。「そうだよ、木原が来ないと寂しいじゃないかー」と酔っ払ったマネージャーはもはや照れることなく木原さんに甘え始めた。すると彼女は「ごめんなさい!今日この後帰ってやらなきゃいけないことがあるので今日はこれで失礼します」と言って深々と頭を下げて謝った。その姿に誰もが仕方ないと思ったのかそれ以上彼女を誘わなかった。みんながカラオケに向かおうとしてる中で唯一佐藤くんだけが納得出来なかったのか「木原さん、来ないんですか?木原さんも一緒に行きましょうよ」と彼女が来ない不満を表したかのような真面目な表情をして彼女に声をかけた。彼女は「ごめんね」と可愛く言うと「みんなと楽しんできて」と上目遣いになりながら笑顔で佐藤くんに言った。佐藤くんは寂しそうだったが高藤さんと駅に向かって歩く彼女の後ろ姿を見送ってるようだった。「ねぇ、私たちも行こうよ」と橋本に言われ、俺達は二次会のカラオケに向かって歩き始めた。

 二次会のカラオケは、飲み会とは違い更に狭まった空間で行われたためマネージャーを筆頭に一体感が生まれ大いに盛り上がった。
「よっ!マネージャー渋いですね!いや、いい男っぷりですね!」と黒川係長が調子の良いことを言ってマネージャーをその気にさせた。また、周りの男性陣や女性陣も負けじと拍手をして場を盛り上げた。俺も先ほどの歓迎会より居心地の良さを感じたので内心ホッとした。
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