異邦人
それなのに佐藤くんだけが一人タバコを吹かしてこのハイテンションな空間に溶け込もうとしなかった。ずっと不機嫌な顔をしたまま虚空を見ていた。見かねた俺は、「どうしたんですか?もしかしてカラオケ苦手ですか?」と聞くと「いや、別に」と返事がきた。その後すぐに「ただ・・・なんで木原さんが来なかったんだろうと思って」と彼は応えた。恐らく木原さんが来なかったことに不満と寂しさを感じているのだろうと思った。
「木原さんって可愛いよな」
「え?」
「そう思わん?年上なのに年上っぽくないというか、なんか可愛いよ」
「ああ、そうですね」
そう言った瞬間、彼と似たような感情を持ち始めた気がして俺は焦りを感じた。
「木原さんとは連絡先とか交換したんですか?」と聞くと「いや、してないよ。すれば良かった」と彼は、先ほどの歓迎会で何気ないやり取りしかして来なかった自分に後悔をしているように見えた。だけど、それと同時に俺は優越感を感じていた。「なんだ、突然。増田くんはしたのか?」と聞かれたので咄嗟に否定した。

木原さんがいなくても二次会は盛り上がった。俺は選んだ曲が流れると、マイクを渡されたので歌い始めた。もちろん、俺の中ではこの場を楽しんでるつもりだった。だけど、彼女のいないこの空間で歌うことは俺にとっては何の意味がないように感じられた。誰のためにも歌わないこの歌は心も持たず行き場を失い、ただ彷徨って虚しさだけが残るばかり。俺は侘しくなった。届かない歌を歌い続ける気の毒な俺は自分を慰めるため彼女からの連絡が来ることを密かに期待してやり過ごした。
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