イジワルな彼は私を溺愛しています
「はぁー、マンガは持っていけないよね……」

カバンに着替えを入れながらため息をつく。

中島先輩と同居することに実感がない。

「もう8時か」

あと、一時間であの家に行かなければいけない。

早めに言っておかないと遅刻でもしたら大変だ。LINEで送られてきた中島先輩の家の地図を開いてカバンを持って家を出る。

暗い道を一人で歩くのは慣れているから何も感じないが、なにせ荷物が多い。

徒歩20分歩いてマンションの前に立った時は少し汗ばんでいた。30階建ての高級マンションの30階にある部屋がこれから私の我が家になるのかと思うと正直めんどくさいと感じる。家に行くのに何分もエレベーターに乗らなければならないのだから。

エントランスに行くと「中島さんからは聞いています」と受付の女の人がすんなりと通してくれた。

エレベーターの中は時間帯もあるのだろうが、私一人だけ。

チンという音と共に30階に着く。

少し歩いて部屋の前に着く。

なんか……緊張する。

深呼吸してインターホンを鳴らす。

「水沢です」

少し経ってからインターホンごしに中島先輩の声がした。

『30分前に来るなんて意外だな。ドア開いてるから勝手に入って』

「お邪魔します」

家具はほとんどない。中島先輩は唯一リビングにある家具、大きなソファーに座ってテレビを見ていた。

「まあ、座れば?」

椅子がないのによく言うと思いながら隅の方に荷物を置いた。

「こんなに何を持ってきたの?」

「教科書類と服だけです」

「ふーん」

「私の部屋ってありますか?」

「ない」

「はい?」

自分の部屋がないなんて冗談じゃない。

「あと、これからは一緒に寝て」

「嫌です」

何を言ってるんだ。
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