イジワルな彼は私を溺愛しています
「では皆さん、廊下に名簿順で整列してください」

どこから現れたのか、頭皮が見え始めている先生が教室のドアの隙間から声を出した。

皆は教室からぞろぞろ出て並び始める。

「これから、入学式になります。C組の皆さんは私の後について来てください」

なっ。この先生が担任なのか・・・?!

入学式の入場のときにクラスの先頭を歩いている先生がそのクラスの担任になることは誰でも知っている。

しかし、心の中で言うならいいだろうが、最悪な先生だ。

はげ、太った体、脂ぎった顔。いいところは何一つとしてない。

イケメンが正義(BL目的)の腐女子としては大ハズレ。

ということは顔には出さずに廊下に出る。

「水沢さん」

先生に手招きされた。

「はい」

「今日、新入生首席として挨拶してもらうからね」

「はい!?」

初耳だ。そんなこと聞いていない。

数時間後のことでしょう?もっと早く本人に伝えるべきではないでしょうか。

「聞いていません」

「おや?お母さんには電話で連絡しましたが、聞いていませんか」

「聞いていません」

先生はほとんど髪のない頭を触りながら言った。

「まあ、決まった事なので。それに名誉なことですからね」

笑顔を浮かべながら私に列にもどるように促す。

私は列に戻りながら、頭をフル回転させた。

あと数時間後に壇上で言わなければいけない。なんで入試当日、もう一問間違えとかなかったのか。

数週間前の自分をぶん殴りたい…いや、負けず嫌いな性格のせいか。

今は何を話せばいいのかを考えるべきだ。

スマホで検索したいところだが、あいにくもうA組が入場している。スマホをみてる間に入場ということになりかねない。

来賓の挨拶が終わったらすぐに私の出番だ。まさに絶体絶命。


家に帰ったら母に怒鳴り散らそう。と若干現実逃避ぎみなことを考えていたら、私が入場する番になった。

講堂一杯に人、人、人。

この大勢の人達のまえで恥をかくのはなんとしてでも避けたい。


私の高校生活のスタートは苦行で幕が上がった。
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