イジワルな彼は私を溺愛しています
「有紀さん」

声のした方を見ると、般若の顔をした和海がいた。

私は見てはいけないものを見た気がして、蟹を殻から取り出す作業を再開した。

この料理は不親切なことにこういう手間のかかる料理が多い。

「有紀さん」

もう一度呼ばれた。

おそるおそる和海を見る。

「な、何でございましょうか」

「何でもないですよ。ただ、お見合い相手がこちらを向いてくれないのが気になりまして」

「そうでございますか」

私はそんな理由かと思って、蟹に向き直った。

「ったく」

和海の声が聞こえて顔を上げると口に何か突っ込まれた。

「ん…んー、美味しい」

和海が私の口にいれたのは蟹だった。

「周りを少し見てみたらどうですか?」

「ん?」

蟹を口に入れたまま周りを見てみる。

全員の視線が私と和海に集まっている。

私は驚きで蟹を飲み込んでしまった。

恥ずかしすぎる…!

私が和海に蟹を押し込まれたところも見られた。

「有紀さん、ちょっと涼みにいきましょうか」

私はコクンとうなずいて、逃げるように和海の後を追う。

和海は一言お父さんに言ってから部屋を出た。
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