ツンデレ黒王子のわんこ姫

混迷

翌日の朝、芽以は満員電車に揺られることなく、いつも通り運転手の真田に送ってもらった。

「芽以様、本日は新入社員歓迎会と伺っております。何時にお迎えにあがりましょうか?」

真田が尋ねると

「父が今日は0時までに帰れば良いとおっしゃったので、歓迎会が終わったら、タクシーでも呼んで帰ろうと思います。今夜は真田さんもゆっくりされてください。」

「承知いたしました」

芽以はいつも、会社から少し離れたバス停で車を乗り降りし、そこからは歩いて通勤していた。

「芽以」

芽以が会社の目の前にある交差点で信号待ちをしていると、後ろから健琉が話しかけてきた。他に会社の人は見当たらない。

「あ、健琉さん、昨日は送っていただいてありがとうございました。お食事までお付き合い頂いて。睡眠時間が少なくなったのではないですか?」

「いや、こちらこそご馳走になった上に送って頂いてありがたかったよ」

健琉が曖昧に微笑んだ。

いつもの俺様ぶりがない。

芽以は、健琉の様子に少し違和感を感じたが、

「今夜は新入社員歓迎会だろ?さっさと仕事を終わらせて一緒に行くから、今日は無駄口叩かないで、急ピッチで仕事しろよ」

と、いつもの口調に戻っていたので安心した。

が、しかし,,,。

健琉の思惑通りには事は進まず、突然降りかかった残業に、芽以だけを"新入社員歓迎会"という名の戦場へ送り出さねばならなくなったのである。

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