ツンデレ黒王子のわんこ姫
「いらっしゃいませ」
健琉は迷わずにGPSが指し示す旅館の暖簾を潜り、受け付けカウンターに近づいた。
旅館の受付はたいてい14時以降だ。
今はまだ10時。
若い男性が一人で、しかも平日に旅館を訪れるなんて訝しがられてもおかしくないと健琉は警戒していたが、受付の担当者はニコニコと笑っていた。
「もしかして、黒田様でいらっしゃいますか?」
受付の担当者は"支配人の仲道"と名乗った。50代と思われる優しそうな男性だ。
「はい、何故名前を,,,」
「ふふ、奥様がお待ちになられておりますから」
健琉は内心驚きすぎて叫びそうになったが、いつものツンデレパワーでなんとか平常心を保つことができた。
「お仕事がお忙しく、いつこちらに来られるかわからないと奥さまから伺っておりました。とても淋しそうにされていたのでお喜びになられますよ」
「芽以、妻には申し訳ないことをしました。ようやく仕事の調整がついて急いで駆けつけましたが、妻は怒っていませんか?」
健琉はわざと悲しそうな顔をして聞いた。
「いえいえ、淋しそうではありましたが、お風呂もお料理も満喫して頂いているとのお言葉を頂いておりますのでご安心下さい」
仲道の言葉にホッとした健琉だが、次第に怒りも込み上げてきた。
よくよく考えれば、いや、よくよく考えなくても、芽以は嘘をついてこの宿に泊まり、挙げ句のはてに旅館を満喫しているとは。
5日後に結婚式を控えている花嫁がやることとはとても思えない。
「,,,部屋に、案内していただけますか?」
健琉は極上の微笑みを浮かべた。
仲道の隣で並んでその様子を眺めていた仲居の女性が頬を染める。
「はい、私がご案内致します」
「ありがとうございます」
この極上の微笑みこそが一番恐ろしいのだと知っているのは、芽以と葵生だけ。
いそいそと健琉を案内する仲居は
「奥さまはこんなに素敵なご主人を独り占めできるなんて幸せですね」
と、呟いていたが、その笑顔が腹黒い企みに満ちているとは考えもつかなかった。
健琉は迷わずにGPSが指し示す旅館の暖簾を潜り、受け付けカウンターに近づいた。
旅館の受付はたいてい14時以降だ。
今はまだ10時。
若い男性が一人で、しかも平日に旅館を訪れるなんて訝しがられてもおかしくないと健琉は警戒していたが、受付の担当者はニコニコと笑っていた。
「もしかして、黒田様でいらっしゃいますか?」
受付の担当者は"支配人の仲道"と名乗った。50代と思われる優しそうな男性だ。
「はい、何故名前を,,,」
「ふふ、奥様がお待ちになられておりますから」
健琉は内心驚きすぎて叫びそうになったが、いつものツンデレパワーでなんとか平常心を保つことができた。
「お仕事がお忙しく、いつこちらに来られるかわからないと奥さまから伺っておりました。とても淋しそうにされていたのでお喜びになられますよ」
「芽以、妻には申し訳ないことをしました。ようやく仕事の調整がついて急いで駆けつけましたが、妻は怒っていませんか?」
健琉はわざと悲しそうな顔をして聞いた。
「いえいえ、淋しそうではありましたが、お風呂もお料理も満喫して頂いているとのお言葉を頂いておりますのでご安心下さい」
仲道の言葉にホッとした健琉だが、次第に怒りも込み上げてきた。
よくよく考えれば、いや、よくよく考えなくても、芽以は嘘をついてこの宿に泊まり、挙げ句のはてに旅館を満喫しているとは。
5日後に結婚式を控えている花嫁がやることとはとても思えない。
「,,,部屋に、案内していただけますか?」
健琉は極上の微笑みを浮かべた。
仲道の隣で並んでその様子を眺めていた仲居の女性が頬を染める。
「はい、私がご案内致します」
「ありがとうございます」
この極上の微笑みこそが一番恐ろしいのだと知っているのは、芽以と葵生だけ。
いそいそと健琉を案内する仲居は
「奥さまはこんなに素敵なご主人を独り占めできるなんて幸せですね」
と、呟いていたが、その笑顔が腹黒い企みに満ちているとは考えもつかなかった。