ツンデレ黒王子のわんこ姫
"ヤバい"

健琉は、躾と称してほんの少し芽以を脅すだけのつもりだった。

男に免疫がないことを馬鹿にして、

冗談半分で"あいつ(沢城)のことが好きなのか"と聞いてみた。

なのに、臆することもなく

"はい"

と、答えた芽以に無性に腹が立って、

健琉は芽以にキスをしていた。

思わずではなく"意図的"に,,,。


"出会ったその日に手を出すなんて,,,。しかも親が勝手に決めた許嫁だぞ"

「くそっ」

健琉は、休憩コーナーにある自動販売機の選択ボタンをバンっと叩くと、商品口からコーヒーを取り出した。

「計画変更だな」

父親の策略にまんまとはまってしまった感が否めないが、そんな敗北感よりも、芽以への独占欲の方が勝っていた。

見かけはドストライク、計算も欲もない素直な天然のわんこキャラ。

もはや、芽以が放つ"癒しオーラ"に毒されてしまったことを認めざるを得ない。

クールで、どんな美女からアプローチされても靡かなかった健琉ですら、たった半日でほだされてしまったのだ。

"あの天然で純粋培養された芽以を、他の男に汚される訳にはいかない"

運良く棚ぼた式に転がり込んだ良縁ではあったが、この2週間、意図せず、飢えた狼の中に芽以を放置してしまったことで思わぬライバルが増えていそうだ。

芽以が入社する前に、顔合わせをしようとしなかった父親を今回ばかりは恨んだ。

健琉は、目の前の自動販売機をぼんやりと眺めていた。

「あいつ甘いもん好きそうだな」

健琉は、続いて"ホットレモン"と"ピーチ"、"ココア"の三種類のジュースを購入した。

健琉は、芽以が何を好きなのかも知らない。

いや、まだ名前と年齢、家族構成しか知らないのだ。

健琉の思いは、心に芽生えたばかりだが、許嫁という立場でやって来た芽以との関係は、追い風であることには間違いない。

明日は土曜日で、黒田家と白木家の顔合わせとなっている。

さすがにまだ、結婚までは考えられないが、このまま芽以を手中に納めるにはどうすればいいか,,,。

そう考えながら、健琉は芽以の待つ商品開発室に戻っていった。

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