甘い運命
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「課長!少しよろしいですか?」
30分ほどのプレゼンの後、私は修一さんの会社を辞した。
もう一ヶ所、サンプルを持っていったあと直帰の予定を変更して、一度帰社することにしたのだ。
槙原さんのこと。
色々考えて、ひとつ心当たりを見つけた。
やはり打つ手は早い方がいい。
うちの羽田課長は、39歳の男性。二人のお子さんを持つイケメンパパさんだ。
修一さんとは違って、スポーツマン系爽やかイケメン。
話し方はとてもフランクだが、実はキレ者。
ちょっとしたトラブルも相談しやすく、結果トラブルが大きくなる前に手が打てる。
尊敬する上司だ。
──ブスだブスだと言われ続けてきた私には、結婚願望がない。
一人で生きていくべく、注意深く安定してそうな会社を選んだつもりだ。
でも、定年までずっとここで仕事をしたいと思えるのは、最初の指導担当だった奈津美さん─課長の奥さん─とともに、仕事にやりがいを持たせてくれた課長のお陰だ。
「おー橋本、どうした?」
課長は、身体を椅子ごとこちらに向けて、人のよさそうな笑顔を見せた。
「杞憂だといいんですけど……」
前置きして、話し始める。
修一さんの会社に送ったはずの書類が届いていなかったこと、今日のアポのこと。
そして、ないとは思いますが、と前置きして、告げた。
「ひょっとしたら私、今から嫌がらせを受けるかもしれません。」
「ふーん、その根拠は?」
「あちらの担当が三上さんだからです。」
「あーなるほど。」
鋭い人との会話は楽だ。
修一さんもそうだ。
「今回のアポ間違いは、三上さんの担当事務の子のミスだったんだよね?」
「そうです。ミスかどうかは不明ですが」
「その根拠も貰おうか。」
「…睨まれました。」
「ブハッ!」
課長がゲラゲラ笑ってる…ヒドイ…