甘い運命

1-23

結局、あの日の夜は、私の推理は話さなかった。

修一さんは話したそうだったけど、わざと私が話を逸らして、バカで笑える話ばかりした。
少しでも、あの気味悪さを忘れて欲しくて。

修一さんが出した今回の件の結論も、おそらく私とそう違いがないもの。

お互い、楽しい話も建設的な話もできないだろうし、修一さんのことだ、自分に非があると思って自己嫌悪に陥るだろう。

イケメンに生まれたのは、修一さんのせいではないのに。
これじゃ、危険を感じて、おちおち好きな人も作れないだろう。

そんなことをつらつらと考えながら、私は会社の休憩スペースにいた。

あの日から、3週間ちょっと経っている。
やはり、色々とトラブルがあった。
……あってしまった。

「…おう、橋本か。」

ひょっこりと顔を出したのは、課長だ。

まだ飲み物を買ってなかった私にコーヒーを奢ってくれて、自分のも買っている。

─躊躇する、空気を感じる。
そして課長は、意を決したように私の方に向き直った。


「……やっぱ、嫌がらせの可能性が高いかな。」

ふうぅと、ため息をつきながら、話しはじめる。
私も、苦笑を返す。ちょっとね、あり得ない。

サンプルが届かなかったのが2件、アポを間違ったのは1件。
送ったデータがいじられていたのもあったな。

先に複数人数での確認を徹底していたので、私自身のミスではないという根拠は修一さんに示せていたけど。

裏を返せば、修一さんの会社に、うちの会社と私の信用を落とそうとする人がいる、ということだ。

もちろんそれに気付いた修一さんは、調査の上、ミスの多い槙原さんを自分の担当から外したり、他の人もミスがあるので、アポは私と直接取ることにしたり、対応に苦慮している。


「ごめん、多分俺のせいで、都に迷惑かけてる。」

お泊まりの金曜日、食事をしながら修一さんは私に頭を下げてくれた。

私は慌てて首を振る。

「いえ、修一さんのせいではないですよね。
でも、同じ会社の人の悪意なだけに修一さん、すごく辛いですよね…。

イケメンって、良いことばっかりじゃないですね。

私的には、攻撃が直接修一さんに向いてないことが救いですよ。
私は大丈夫です、慣れてるので!」

元気よく言う私に対して、ありがとう、と、修一さんは元気なく呟いた。

その姿があまりにも─何と言うか、傷ついているようで。
何か言わなくちゃと思った私は、思ったことを垂れ流す。

「いざとなったら、私が守ってあげますよ!
こうやって両手広げて、修一さんの前に立って。

私を傷つけてしまうとか、それが怖いとか、思わないでください。

だって私、こういう問題なら、修一さんを守れるくらい強いですよ?

ダテに、男友達の周囲の女の子たちの悪意に揉まれてません!
陰口なんぞ日常茶飯事!

何言われても、負けませんし。負けそうにないでしょう?」

にっこり笑って、力こぶなんか作ってみる。
ははっ、と声がして、やっと修一さんが笑った。

「…ありがとう、都。」

さっきより少しだけ力の入った声に、私も少しだけ安堵した──
────

「……しかしなぁ。」

おっと、どこかにトリップしてた。
私は慌てて、意識を課長に戻した。

難しそうな表情をした課長に、聞いてますよ、という視線を投げる。


課長は、少し躊躇ってから、口を開いた。
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