甘い運命
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「…三上さんも、相当困ってるみたいだね。
この前あちらに行くことがあって、話したよ。
事務の子、槙原さんだっけ、あの子三上さんの担当の会社の専務の娘らしくてさ。三上さんの上司とも懇意で、結局担当に戻されたらしいぞ。
うち相手じゃなければ、ミスもほとんどないらしい。
全く、幼稚だよなぁ……。」
立場利用しているあたり、腹も黒いよな、と付け足して、課長は手元のコーヒーを飲んだ。
こちらはメーカーで、商社の修一さんの会社の方が立場が強い。
さらにその取引先の専務の娘の槙原さんは、もっと立場が強いだろう。
私は俯く。…そろそろ、かな。
「橋本、お前の考えは?」
ほらきた。こういう時、課長は頭ごなしに命令したりしない。
ちょっとずるい。私から言わせて、納得させるのだ。
私は苦笑とともに言った。
「…潮時だと思います。いつまでも皆さんに確認させるのも悪いですし、三上さんの精神衛生のためにも。」
課長は、ふう、と溜め息をついた。
そして暫く考えると、口を開いた。
「……山崎に引き継いで。山崎から、松本フーズの担当をお前に変える。ちょっと売上は減るが、規模はほぼ同じだ。担当の小田さんはちょっと難しい人だが、懐に入るととても可愛がってくれる。頑張ってみろ。」
「わかりました。早めに引き継ぎます。」
「おう。頼むな」
「承知しました。」
くるりと踵を返すと、私は休憩スペースを後にした。