甘い運命
1-30
──いつの間に、眠っていたんだろう。
私は玄関に突っ伏した状態で、目を覚ました。
うう…体のあちこちが痛い。熱があるな、これは。
6月とは言え、濡れたまま何時間もいたのだ。当たり前だ。
自分の馬鹿さ加減に笑いが出る。
重い身体をどうにかバスルームに移動させて、あまりの怠さにシャワーを諦めて、濡れた服を脱いで着替える。
時計を見ると、4:00過ぎだ。
とにかく解熱剤と水分。
何とか薬を飲むと、ベッドに潜り込んだ。
───
───────
ドンドンドンドン!
ピンポンピンポン!
ドアの連打と呼び鈴の連打。
うう……頭が痛いのに………。
私は、うっすらと目を開けた。
「おねーちゃん、いるの?
いるなら返事して!」
あああ…岬だ。
2つ年下の妹。
私は何とかベッドを這い出して、いつの間にか掛けていたらしい鍵を開けに、玄関に向かう。
どうにか開けると、岬が飛び込んできた。
「おねーちゃん、何回電話してもメールしても…って何?!」
いかにも熱がありますっていう顔をしているのだろう、岬がビックリしたように叫ぶ。
「あー…昨日雨に濡れちゃって…。ちょっと熱が出ちゃったみたい。何か用?」
にっこり笑いたいのに、変な顔しかできていないのがわかる。
熱ってことで、私が泣いたことには気付かずにいて欲しい。
そう祈りながら、返事を待つ。
「あーもうまず寝て!ベッド行って!!」
岬は私の腕を自分の肩に掛けて支えながら、私をベッドに連れていく。
「おねーちゃん熱い!熱計って!体温計どこ?!」
私はベッド脇のチェストから体温計を取り出し、ドサッとベッドに倒れ込む。
ちゃんと計るか監視するような岬の視線を感じるけど、瞑った目を開けられない。
呟くように、心配させてごめんと言うと、岬が怒ったように言った。
「本当に心配したんだよ!
昨日おかーさんが煮物持ってきてくれたから、夜何回も電話してたのに、電源入ってないってアナウンスばかりだし、朝からずっとかけてるのに、やっぱり変わらないし!」
「え…?今何時?」
「11:00だよ!熱高かったら、病院行くからね。」
「病院行くほどじゃないよ…大丈夫……。」
ピピ、と、タイミングよく体温計が鳴った。
岬に奪い取られる。と同時に眉が上がる。
……うわぁ怒ってる。
「39.7℃ですがお姉さま。雅人さん呼ぶからね。すぐ行くよ!」
──はいごめんなさい。ワガママ言いません。
旦那さんを呼ぶ岬を横目に、着替えようと起き上がった。