甘い運命

1-49

岬の絶叫で起こされた私たちは、現在ベッドの前のラグに座っている。
私は正座だ。なんとなく。

目の前には、不機嫌を顕にした岬。

「…おねーちゃん、こういう状況なら、一言連絡あって然るべきでしょ。
変なモン見せられるこっちの身にもなってよ!」

「ハイ、スミマセン……。
でもね、携帯がダメになってて、連絡先とかも書いてなくて…」
「あーそうだった!」

岬は頭を抱えた。ぶつぶつと、『連絡先メモして置いとくんだった…』という言葉が聞こえる。

「都、携帯壊れたの?」

今さら聞いてきたのは、修一さん。

「そうなんです。…金曜日に濡らしてしまって。」

修一さんと槙原さんを見て、ショックで長いこと呆然としてて、雨に打たれ続けた結果とは、とても言えない。恥ずかしくて。

でも、修一さんが急激に蕩けるような笑顔になったので、『あ、バレた』と確信した。

それを見て、岬が一言。

「…このバカップル。」

……返す言葉もございません。

「で?どういう状況?」

岬が端的に聞いてきた。
私はゴニョゴニョと答える。

「あのその…色々と話して誤解が解けて…付き合うことになって……」

「え?三上さんて、彼女がいたんじゃなかったの?」

「いや、岬が言った通り、違ったみたい…」

私はどんどん縮こまる。よく考えたら、痛い奴だ私。
勝手に誤解して、空回って、熱まで出して病院に担ぎ込まれて、迷惑かけて。

あ、まずい、落ち込んできた。
かろうじて、呟くように言う。

「迷惑かけて、ごめんなさい……」

岬はふぅぅ、と溜め息をついて、三上さんに向き直った。

「三上さん。…姉は、こういう人なんです。
自分がどんなに辛い状況でも、相手のことを最優先に考えて。
自分の気持ちを殺してでも、相手の幸せを願えるの。

──あなた、見た目がいいから、凄くモテるでしょう。

色んな女性が群がるだろうから、多分、あなたの側にいるだけで、姉はたくさん傷つく。
仕事でも、そんなことがあったんでしょ?

……あなたは、それでも姉と付き合うっていうの?」

岬、年上の人にタメ口になってるよ。
心の中の突っ込みは、取り敢えず口には出さないでおく。
──凄く、真剣な問いかけだから。
私のことを思って言ってくれているのが、ひしひしと伝わる。

「……そうですね。」

暫く考える風だった修一さんが、意を決したように口を開いた。


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