甘い運命
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瞬間、キャーともギャーともつかない悲鳴が、そこかしこであがる。
「……さん、橋本さん!魂抜けてますよ!!
早く戻って来てくださいって!!」
山崎くんに肩を揺さぶられて、はっと意識が戻ってくる。
「ちょっと山崎さん、都に触らないでもらえますか?」
空気を読まない…いや、無視している修一さんが、山崎くんを睨む。
「ああ、すみません。でもこうでもしないと、橋本さん戻って来なかったッスよ。」
しれっと答えるあたり、この子大物かも。
そんな感想も、まだ遠くで考えているような感じだ。
「戻ってこいって言われても…どこに?」
「そっすね、取り敢えず返事しないといけないんじゃないですか?」
チラッとロビーの方を見る山崎くん。
──うわぁ、皆固まってる。
これまさか、返事待ち?!
「都。」
名前を呼ばれて、目が合う。
『大丈夫、俺を信じて』
そう言われている気がした。
私も、覚悟を見せよう。
人目とか、どうでもいい。
ただ、修一さんだけを見つめて。
「─はい。不束者ですが、よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をする。
瞬間、また悲鳴とどよめき。
修一さんは、それは綺麗に微笑んだ。
持ったままの私の手を握り、良かった、ありがとうと呟く。
近くにいた友人らしき人たちに祝福される修一さんを見ていると、山崎くんが呆けながら、ぼそっと言った。
「三上さん、格好いいですね。なかなかできないですよ、これ。
橋本さん、めっちゃ愛されてますね…。」
ははっ、と笑って誤魔化した。
ゴメンちょっと今キャパオーバー。
何と答えていいか、分からない。
男性は祝福、女性は微妙というカオスな雰囲気の中、エレベーターの方から強い視線を感じて、私は目線を動かした。