甘い運命
4
「……おねーちゃん、やらしい顔してるよ。」
岬の声に、はっとする。
ダメだ、浮かれすぎだ。
そんなことない、と言いつつも、顔が火照る。
手で顔を扇いでいると、岬が私の眉間めがけてビシッと指を指した。
「おねーちゃん、初めてだから怖いと思うけど、もう婚約したんだし、あんまりおにーさん待たせたら可哀想だよ?」
「うん…わかってる。」
「きっと、おねーちゃんもおにーさんも、幸せな気持ちになれるよ。
好きな人に愛されるとね。」
岬が優しく微笑んだ。
心からの微笑みだ。岬も、そういう関係を雅人さんと築いているのだろう。
「大丈夫、心配しないで。
修一さんとなら、怖くないから。」
もうすぐ妖精になれそうだった私を、岬も気遣ってくれる。
耳年増なばかりで、確かに怖い。
痛みがあるとか。
このぽっちゃりを、修一さんに晒して嫌われないのかとか。
自分が自分でなくなるような感覚だとも聞く。
でも、修一さんが欲しがってくれるなら。
私が差し出せるものなら、何でも差し出す。
それは、もう揺るぎない思いだ。
───その夜、実家で食事を済ませた私たちは、修一さんの部屋に戻った。
ホテルに部屋を取ろうとした修一さんに、抱かれるならここで、とお願いしたのは私だ。
私たちの始まりは、この部屋での『抱き枕』からだ。
ここに、思い出をもうひとつ。
シャワーを浴びて、緊張してガチガチになっている私。
アラサーにもなって情けないけど、これが私だ。
今さら、経験値は増やせない。
そんな私を修一さんは優しく抱き締め、何度も優しいキスをくれた。頭や背中を、ゆっくり撫でながら。
「…ガチガチですみません…」
キスの間に呟いた私に、修一さんはすごい色気を纏った笑顔を向ける。
「都、俺がどんなに嬉しいか分かる?
都にもし経験があったら、俺、嫉妬で狂う。
俺が初めてで良かった。
それと、俺が都の最後の男だから、都は俺以外の男を知ることはないよ。
俺だけの都だ。」
「…それを言うなら、私だけの修一さんじゃないですね。」
私は、拗ねた振りをして、修一さんに言う。
そんなことはどうでもいいのだ、本当は。
でも、少しだけ、困らせてみたい。
「……こんなに、自制が効かなくなるまで欲しいと思ったのは、都だけだ。
今から、きっと俺は初めての感覚を味わうよ。
発散したい『欲』を越えた何かを、きっと都は俺にくれる。
……こんな『初めて』じゃ、だめか…?」
「ふふ、充分です。」
私は修一さんの首に腕を絡めて、抱き締めた。
それを合図に、さらにキスは深くなっていき、気がつくと服は全て取り払われていた。
慣れてるな、と思ったのは一瞬。
身体中にキスを落とされ、修一さんの手は優しく妖しく、身体をまさぐっていく。
キスされるごとに、触られるごとに、愛されていることを実感する。
修一さんの身体中から、私を想う気持ちが伝わる。
なにも考えられないほどの気持ちよさに、我を忘れかれたとき。
硬いものが濡れた秘部に押し付けられ、切なくかすれた声で修一さんが「いい?」と聞いた。
「怖かったり痛かったりしたら、やめるから。
もう待てない。都とひとつになりたい。」
「…いや。私が怖がっても嫌がってもやめないで。
全部修一さんにあげたい。
私が持っているものなら何でも。」
「…くっ…。都、バカだな。もう止まれない。」
そう言いながらも、ゆっくりと私のなかに入ってくる、硬くて太い楔。
「都…力抜いて…キツ……」
「ああっ…あっ…はあっ……」
喘ぎ声しか出ない私の様子を見ながら、ゆっくりと修一さんの全てを埋めて。
修一さんは私を抱き締めた。
「都…俺、幸せだ。幸せだと感じるセックスは初めてだ。
ありがとう、都。こんな幸せを教えてくれて。」
「わ…私の方こそ幸せです。修一さんとひとつになれた…」
一筋、涙がこぼれる。
修一さんはそれを舐め取って、苦しそうに顔を歪めた。
「そんな可愛いこと言わないで…メチャクチャにしそう…」
修一さんはゆっくりと、律動を始める。
痛みと快感に揺れながら、自分のものとは思えない声が漏れる。
修一さんのものが、また大きくなってわたしの中を圧迫する。
「あっ!………あぁぁっ!…あっあっ!!」
「…くっ…出る…!都っ!」
修一さんに名前を呼ばれ、私の中がきゅんと締まるのが分かったと同時に、修一さんも果てたようだった。
ぐったりした私の後始末を、修一さんがしてくれる。
下腹部の痛みは、ある。強烈な違和感も。
でも…なんだろう。この、凄い幸福感は。
痛い筈なのに、怖かった筈なのに。
──私、物凄く幸せだ。
余韻に浸る私を、布団に入ってきた修一さんが抱き締める。
「ごめん都…余裕なくなって、無理させたな…」
「ううん、今ね、凄く幸せだって思ってたんですよ…。
──修一さん、大好きです。大好き。」
私は、修一さんを抱き締めた。
修一さんの腕にも、力がこもる。
「都、一生大事にする。約束する。だから、ずっと一緒にいて。」
私は修一さんを強く抱き締めて、気を失うように眠りについた。
「都、愛してる…」
意識が落ちる寸前、抱き締められながら聞こえた修一さんの言葉に、強烈な幸せを感じながら───