甘い運命

1-9


「……あとは下着かな?」

ガッカリした気持ちのまま俯いていた私は、ガバッと顔を起こす。ダメ、ゼッタイ!

「……さすがに下着は置いとかないですよ?」

睨むようにして、言う。
負けてはならない!ここは死守だ。

修一さんは、クスクス笑いながら、「そっか」と言った。

「まあ、いきなりお泊まりになっても、下着はコンビニにあるしね。大丈夫か。」
「何で『いきなりお泊まり』前提になってるんですか!
せめて『前日予約』です!」
「えー、でも急に会いたくなったりするじゃない。」

ちょっとむくれて、修一さんが言う。

──これだ。最近困ってるのが、これなのだ。

いくら周囲の男女に『女として枯れている』と言われる私でも、勘違いしそうな台詞じゃないですか?コレ。

こんなことを頻繁に言われるものだから、そういうのに慣れていない私としては、毎度オタオタしてしまうのだ。

質の悪いことに、最近の修一さんは、私が困るのをわかっていてからかう。

「─そんなことは、好きな女性に言ってくださいよ!
さらっとかわすような上級テクなんて持ってないんですから、免疫ない人間に言っちゃいけません!!」

真っ赤になって抗議すると、しれっとお返し。

「え、俺、都大好きなんだけど(ハート)」

カッコハートまで口に出して言ったよ、この人!
ふざけてるの、わかってるっつーの!!

私が下を向いて、怒りでふるふると肩を震わせていると、さっと近づいてきて、ギュッと抱き締めて、髪を撫でる。

これも最近困ってることのひとつ。
とにかくスキンシップが多いのだ。

修一さんにとっては『縫いぐるみ』扱いなんだろうけど、ほぼそういうのを経験していない私としては、ホントに心臓に悪いのだ。

『抱き枕』は、ある程度覚悟があるし、慣れてきてもいたから、大丈夫なんだけど。

ソファで座っていると、頭を膝に乗せてくる。
料理をしていると、背後から私の肩に顎を乗せる形で覗きこんで「まだ~?腹減ったー!」とか言ってくる。

今回のことだって、そうだ。
抱き締めて髪を撫でられるとか、ドキドキするなって言う方がおかしい。

「よしよし、可愛い都ちゃんをからかって、いけない修一さんですね~」
「自分で言うなッ!」

体を離そうとする私を、ケラケラ笑いながら、なおも力を入れて抱き締める。

修一さん、キャラ崩壊してますよ?!
クールイケメンはどこ行った?!

抗議を込めて見上げる。そして、ピキッと固まる。
こちらを見ている修一さんの目が。
何だかとても、優しい…ような…ちょっと困ったような。
──勘違いだ、『いとおしそう』な目だって思うなんて。


ぶぁっと顔に熱が集まるのがわかる。
意識してしまうと、もう恥ずかしくて顔を上げられない。
私はばっと視線をそらして、俯いた──


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