曇り、ときどき雨。君に、いつでも恋。
と、意気込んだものの。



「バサバサ歩きすぎ。
ホコリが舞うだろ。」



「すみません。」


やっぱり今日も今井さんはいて、
今井さんに怒られて。

超テキパキ作戦は、見事に失敗に終わった。


でも今日は、
「遅い。」
は言われなかったから、少し成長できたかな。



もう少し、優しく言ってくれるといいんだけど。

注意されてもいいし、確かに注意内容は妥当だから(始めたばかりだから多目に見てよとは思うけど)、優しく言ってくれればあたしも耐えられるのに。

あの無愛想な言い方で、不機嫌そうな顔で言われるからすごく落ち込む。








あーあ、って思いながら帰る支度をしてると、パートのおばさん、たしか名前はヤマモトさん、に声をかけられた。



「佐藤さん。」


「は、はい。」


この人にもあたし、注意されるのかな・・・。


ヒヤヒヤしながら次の言葉を待つと、それは意外なものだった。


「あなた、すごく頑張ってるわね。

まだ3日目、とかでしょう?
高校生のバイトの方で、こんなによく働いてくれる子初めて見たわ。

あたしたちも、すごく助かってるの。



ありがとうね。」



・・・・・え?

あたし、ほめられ、た?



「いえいえ、そんなことは、ないと思います。


今井さんに、しょっちゅう怒られてますし・・・。」



あたしは少しうつむきながら苦笑いした。


「今井さん、ね。

あの子、高校生の新人さんに厳しいのよ。

というのも、佐藤さんみたいによく働いてくれる高校生の子は、ほとんどいなくて。

それで、今井さんに注意されて音をあげてやめていっちゃう子が多いのよ。


まあでも、今井さんのおかげでやる気のない子とかが早々とやめてくれるから、正直、あたしたちも助かっててなんにも言わないのよ。


でもね、多分、そろそろなにも言われなくなるんじゃないかしら。

今井さんが新人さんをたくさん注意するのは最初の何日かで終わるから。」



「え、そうなんですか?」


「そうなのよ。

だからもう大丈夫だと思うわ。



それに、佐藤さん、すごくよく働いてくれてるしね。
あたしたちも大歓迎よ。

これからよろしくね」



「は、はい!ありがとうございます!!」


「じゃあ、お疲れ様。」


そう、だったんだ。

あたしにだけ、じゃないんだ。

心が一気に軽くなった気がした。


良かった・・・。

それならバイト、続けられるかも。



「お疲れ様でした!」


あたしは軽い足取りで、家に向かった。
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