曇り、ときどき雨。君に、いつでも恋。
「古典、好きか?」
また、古典の話?
なんで??
そんなに好きなの???
でもまあ、怒られるわけじゃないみたいで
一安心。
んー、古典かあ。
好きでも嫌いでもないかなあ。
「ふつう、です。」
あたしが答えたあと、
今井さんは少し何か考えてから言った。
「そうか。
・・・・ああ、引き止めてごめん。
歩きながら、少し話してもいいか?」
・・・、今井さんと一緒に帰るってことですか。
何それ、すごく緊張する。
でも、やった。
仕事以外の話できるの嬉しい。
正直、古典のこととかよくわかんないけど。
「はい。私で良ければ。」
あたしの言葉を聞いてから
今井さんがあたしの隣に並んで歩き始めて、
あたしも慌てて足を踏み出した。
今井さん、背高い。
並ぶと実感する。
暗いのと今井さんが背が高いのとで
今井さんの顔がよく見えない。
「・・・ありがとう。
学校の古典の授業は、楽しい?」
今井さんの声が、近い。
すぐ上から降ってきて、息遣いまで聞こえてきそう。
聞いてて心地良い、低い声。
どうしよ、緊張で声が震えそう。
「楽しいとは、思ったことない気がします。
つまらなくも、ないですけど。」
ほんとになんで、こんなに古典の話?
理解不能。
「じゃあ、
こういう風にしたら楽しいと思える、とかあるか?
わかんなきゃ、いいけど。
もしそういうのあったら言ってみて。」
なんだろう。
今井さんの声が、いつもと違って不機嫌そうじゃないっていうか、トゲがないっていうか。
いつもより、口調が穏やか。
決して、愛想がある話し方というわけではないんだけどね。
あの、ほめられたときみたいに。
いま、どんな表情してるのか見えないのがすごく残念。
・・・どういう風にしたら、かあ。
そんなのあるかなあ。
難しい・・・。
「えっと・・・、うーん、
学校では、訳して文法解説して、っていうのがほとんどなんですけど、
私はもう少し、
その文章が書かれた背景とか
当時の習慣とか
当時の今とはちがう常識とか
なんというか
今とは違うことを教えてもらえたら楽しくなるのかな、なんて思いますが・・・。
よくわからないです。」
なんとか答えて
歩き続けていると
もう目の前には駅が見えてきて、
ああ、もうお話は終わりかな、なんて残念に思っているあたしは本当になんなんだろう。
って、さっき、もう考えないって決めたじゃんあたし。
だめだめ。
「・・・・・。
参考になった。
ありがとな。
じゃあ俺はこれで。
気をつけて帰れよ。」
それだけ言って、今井さんは
あたしたちが歩いてきた道をスタスタ戻っていった。