男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
アベルが給仕を始める中、ミシェルはただ座って視線を彷徨わせていた。

食事をするクロードをじいっと見ているのも失礼だし、かといって真正面だけを見据えているのもどうかと思う。というわけで、ミシェルは頭をなるべく動かさず、様々な場所へ視線を向けていた。


(なんの拷問なの……)
 
クロードは赤紫色の葡萄酒を口にする。その仕草はとても美しい。マーサの店でスープとパンを食していた時は特に思わなかった。


(きっとわざと粗野に食事をしていたに違いない。あの店では陛下は不釣り合いすぎるもの)
 

視線をあちこちに動かす落ち着かないミシェルをクロードは内心楽しんでいた。
 
惹かれている娘がすぐ近くにいる。元々陶磁器のような美しい肌で艶やか。顔色がよくなっているのがわかる。
 
クロードは侍医にミシェルの容態を逐一報告させていた。

高熱を出しているミシェルの様子を見に行きたい衝動に何度も襲われた。報告だけのはずが一度だけ見に行ったのを知っているのは、看病をしていた侍医見習いのベアトリスだけだ。
 
ミシェルは眠っており、クロードが来たことなど微塵も知らない。


(こうしてみると、なぜ女だと気づかなかったのか……)
 

滑らかな肌、男性とは違う華奢な骨格、唇は花びらのように可憐である。
 
ミシェルが気になるクロードだが、正体を知っていると悟られたくないため、無表情でいた。
 


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