男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
ミシェルを侍従のアベルに頼みロドルフが去る時、危うく泣きそうになったのを必死に堪えた。

侍従のアベルはやや神経質そうなやせ型の男だが、ロドルフとの会話では尊敬の念を抱くような態度で、ミシェルはうまくやっていけそうだと思った。


「さ、行きますよ。まずはロドルフさまの部屋へ案内いたしましょう。荷物を置いたら侍従服に着替えてください。仕事を教えます」

「はい! よろしくお願いします」


ミシェルは声を低くすることに意識して頭を下げた。これからフランツとしてやっていかなくてはならない。ミシェルは気を引き締めて、アベルの後について行く。
 
祖父の部屋は主塔のある二階にあった。

隣はアベルの部屋で、使用人が主(あるじ)となる城の棟に住むのはふたりだけ。国王の私室は三階にあり、どんな時も世話が出来るように近くに部屋がある。国王の私室の隣にも昼間待機する侍従部屋があった。

廊下を歩きながら、目にするタペストリーや豪華な調度品にポカンと口を開けてしまうミシェルだ。


(すごい……こんなものを見るのは初めて……)
 
拭き掃除をしている侍女も数多くいる。

廊下には真紅の絨毯が敷かれており、足音は消され、靴の裏の慣れない感触にミシェルは躓きそうになる。


「こちらです」
 

廊下の数多くある扉のひとつをアベルは開けた。そこはきちんと整頓された祖父の部屋だった。
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