男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「風呂に入れるんです。湯に浮かぶ赤いバラは血のようで実に美しい。さて、このくらいでいいだろう。陛下、失礼させていただきます」
 

パスカルは仰々しいお辞儀をクロードにして、立ち去っていく。

年老いた侍従は青くなりながら、頭をあげられない状態にもかかわらず、さらにお辞儀をしてそそくさと通り過ぎた。

クロードが国王にもかかわらず、パスカルを強く叱責しないのは彼が母親違いの兄だからだ。

彼以外の者が同じことをしていたとすれば、罰は免れなかっただろう。
 
ミシェルにはパスカルが去った後、クロードが小さくため息を吐いたのを聞き逃さなかった。それを苛立ちのため息と感じたミシェルは口を開いた。


「ご報告をせずにもうしわけありません」
 

クロードはバラ園に入り摘んだことではなく、ミシェルの存在がパスカルに知られていたことに懸念していた。


(義兄上はこの者が女だとわかったのか……?)


「……フランツ、戻るぞ」

「は、はい」
 
クロードが来た道を引き返し、ミシェルは遅れを取らないよう小走りで追った。


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