男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
部屋の窓を開けると、気持ちのいい風に乗って楽団の美しい調べが聴こえてくる。

ミシェルは机に両肘をつき顎を乗せた姿勢でしばらく音色を楽しむようにうっとりしていた。
 
今夜はお役御免。
 
ミシェルは侍従服の上着を脱いで白いシャツ姿のままの寛いだ格好でいる。


「きっと大広間はドレスの花が咲いたように綺麗なんだろうな……」
 

真珠や宝石などがあしらわれたドレスには縁がないが、やはりミシェルとて女だ。綺麗なドレスを一度は着てみたい願望はあった。


「でも、私には必要ない……」
 

独り言ちてからため息をつき、机の端に置いていた分厚い本を引き寄せる。今朝、クロードから渡された本だ。
 
こんなに見事な本に触れるのも初めてである。
 
汚れないように一枚一枚丁寧にめくってみると、ベルナディス国の歴史の章がある。


「歴史……重い、重い……」
 
今はもっと違うものを読みたい。
 
ミシェルは半分ほど飛ばして、さらにページをめくった。そこで社交ダンスの図解が目に入る。


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