男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
ミシェルは午前の休憩時間に南棟の一階にある侍医室へ向かった。

誰も自分を見張っている者がいないかを頻繁に確認しながらだ。

所々に立っている衛兵しかいない。


(この衛兵の中にブルーニ公の息がかかった者がいませんように)
 

侍医室の前に立ち、扉を叩く。すぐにベアトリス侍医見習いが扉を開けた。ミシェルの姿ににっこり笑顔になる。


「フランツ、どうぞ入って」
 

ベアトリス侍医見習いはミシェルを侍医室へ招き入れる。


「はい。陛下が眠れないようなので薬をいただきに」
 

ミシェルは周りを見ないようにし、嘘の用事をあえて口にしてから中へ入った。
 

扉を閉めてミシェルは室内を見回した。部屋にマティアス侍医はいない。
 
侍医室は人がひとり横になれるほどの幅のベッドが二台と机に椅子、薬がきちっと整頓された瓶が収められた戸棚の簡素な部屋だ。


「座って」
 

ベアトリスはミシェルをベッドに座らせる。それから自分はすぐ近くの椅子に腰を下ろす。


「陛下は眠れないの? 父が戻ってきたらすぐに陛下の元へ行かせるわ」

「い、いいえ。それは嘘です。すみません。ベアトリスさん、あなたしかお願いする人がいなくて。なにも聞かずに私の祖父へ手紙を持って行ってくれませんか? ここなんですが……」
 

家までの道のりを書いた地図をベアトリスに渡す。ミシェルの必死な顔にベアトリスは当惑した顔になる。


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