男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「緊急な事なの……?」

「はい。お願いです!」
 

ミシェルは内ポケットから祖父宛の手紙を出し、頭を下げながらベアトリスの目の前に差し出す。
 
懸命なミシェルにベアトリスはなにかあったのだと、手紙を受け取る。


「ありがとうございます! ベアトリスさん、祖父に手紙を渡したら、なにもかも忘れてください! 行くことも誰にも話さないで」

「……今日ちょうど町へ行く用事があるから、そのついでに渡してくるわ」

「ありがとうございます!」

「フランツ、なにもかも忘れてって、本当にどうしたの?」
 

必死なのはなにかあったに違いないと、ベアトリスはミシェルを見つめる。瞳は怯えているようだった。それを一生懸命に隠している。


「それは……一週間以内にわかります。私のことはなにも知らないフリを」
 

ミシェルはそれだけ言うとベッドから降りて、扉へ向かう。


「フランツ、私ではあなたの力になれないの?」
 

ベアトリスは強張った後姿に問いかける。ミシェルは振り返り、そっと微笑む。


「もう十分力になってくださっています。本当に……よろしくお願いします」

ミシェルは扉の前で深く頭を下げると、侍医室を出た。
 
侍従部屋に戻りながらミシェルはベアトリスが引き受けてくれてよかったと安堵していた。いや、ホッとするにはまだ早いだろう。

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