男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
(陛下は助けてくれるだろうか……ブルーニ公の企みを信じてくれることを祈るしかない)


 
毒の入った小瓶を受け取ったと話しても、パスカルが否定したら罪に問われないだろう。証拠がないのだ。
 
そんなことを考えながら談話室の床を磨いていたミシェルの元へ、アベルがやって来た。


「フランツ、バラ園へ行って花を摘んできてくれないか? 陛下が居間にご所望だ」

「わかりました!」
 

ミシェルは屈めていた身体を起こしてにっこり笑う。


「あ、くれぐれも棘には気を付けておくれよ」

「はい。大丈夫です。ここを拭き終わったら摘んできます」

「よろしく頼むよ」
 

アベルが談話室から出て行った。

 

ミシェルは籠とハサミを持って南棟を出た。


(心を込めてバラを飾ろう……)
 

侍従見習いとして大変なことが多かったが、楽しかった。こんなことがなかったら、侍従見習いを辞めたあと、侍女や下働きで働きたかった。

クロードを欺く男装のミシェルではなく女のミシェルとして。

クロードの近くでは働くことが出来ないが、遠くから、滅多に見られなくても近くで過ごしたかった。


(そんなのはもう無理だわ……)
 

自分の罪はよくわかっている。しかし家族は守りたかった。
 

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