男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
色とりどりのバラが放つ、うっとりするくらいの香りの道を進んでいく。

ここはパスカルに会った嫌な場所でもあるが、クロードと歩いた素敵な時間の思い出のほうが大きく、ここへ来ると幸せな気分になる。
 
村娘のミシェルとして出会った伯爵の子息クロードが恋しい。けれど同じ人。最近は伯爵の子息として偽っているクロードを垣間見ている。


(私、いつの間にか陛下を好きになっちゃったんだ……)
 

なおさら好きな人を窮地に陥れることなんて出来ない。
 
ふと薄紫色のバラが目に留まった。


「この色も素敵……これと薄いピンク色のバラを飾ったら居間が華やかになる」
 

咲き乱れる薄紫のバラの茎に手を伸ばした時――。


「ずいぶんと悠長なことだな。期限は明日までだぞ」
 

ミシェルはハッとなって振り返る。すぐ後ろにパスカルが腕を組んで立っていた。
 
驚いた拍子に棘がミシェルの手の甲に当たる。かすり傷ができ、傷口からみるみるうちに血がにじんでくる。


「それくらいなんでもないだろう? もっと酷いことだって私には可能だ」
 

茫然となるミシェルにパスカルは数歩歩き、距離を縮める。


「もう時間が無いぞ? わかっているな?」
 

パスカルは念を押すようにミシェルににじり寄る。小刻みに震えてくる足で、ミシェルは立っていた。




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