男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
(どうしよう……ここは切り抜けないと……)
 

ミシェルは怖気づきそうな心を強く持とうと下唇を噛む。


「どうした? 声が出せなくなったのか?」
 
今のパスカルは茶色い瞳に猟奇的な色を浮かべていた。


「まだ決心できないのなら、させてやろうか?」
 

静かな口調が余計にもの恐ろしさを感じる。パスカルは腕をミシェルに伸ばした。硬直して動けないでいるミシェルの首をがっちり掴んだ。


「細い首だな。力加減をしなければ折ってしまいそうだ」
 

ミシェルの喉の奥から「ひっ」と小さな音が漏れる。それから息が出来なくなった。パスカルの手がミシェルの首を強く締めつけたのだ。


(私、ここで死ぬの……?)
 

目の前がかすみ、身体の力が抜けていく。
 
意識が遠のき始めた。不意にミシェルは自由になり、その場に倒れ込む。呼吸が苦しくて身体を丸めて咳をしながらミシェルは肺に息を取り込もうと喘ぐ。


「ゴホッ、ゴホッ……」

「明日中に必ず殺せ。さもなくば、お前の一族は皆殺しだ。どこへ逃げても探し出す。わかったな。クロードを殺せ」
 

パスカルは非情な声色で告げ立ち去ろうとしたその時――。
 
彼の仮面のような顔が崩れた。


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