男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
侍医にミシェルを診てもらい、ベアトリスが看病に付き添う。

アベルはクロードを待つため、国王の私室へ向かった。
 
クロードはなかなか戻ってこなかった。クロードにとって母違いの兄を詰問するのは辛いことだった。
 
愚義兄だったが、パスカルの日頃の仕事の怠惰さは目をつぶり温情をかけていた。パスカルに取り入り娘を嫁がせようとしていた上流貴族たちも今回捕らえられたことで離れていくだろう。

 
「陛下、お疲れのこととお察しします。今日は早くお休みください」
 
ヴァ―ノンは数歩前を歩くクロードに声をかける。
 
パスカルが収監されている東棟の地下牢を出てから、クロードはひと言も口を開かなかった。
 
ヴァ―ノンの言葉から少しして、深いため息がクロードから漏れる。


「……酒に付き合ってくれ」

「はっ」
 

酒で気を紛らわしたのならば、とことん付き合おう。そう思ったヴァ―ノンだった。
 
廊下を進み、南棟の入り口が見えるところまでふたりは戻って来た。そこへ入り口に立っている衛兵の前を行ったり来たりしているアベルがいた。


「ああっ、陛下!」
 

アベルはクロードの姿を目にして飛んできた。


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